「だから何?」って言う話。

僕は、性格が悪い。

タイトルからして、性格の悪さが滲み出ていることだろう。

前にこんなの書いてた。これは素材の知識が無知とかそういうことじゃなくて、企画側や、生地屋などから、それぞれの商品に対するスペックなどがうまく売り場まで伝達されておらず、服を買う人にその服や素材の良さを伝えきれないのは残念なことだなぁというポエムだ。


では素材の良さとはなんだろう。

『良い』という感覚は人それぞれなので同じモノサシではかることは難しいのだが、「原料の銘柄というのは一種の判断材料になるのではないか?」と我々繊維人は考える。名前の通った高級原料を使用することで、価値訴求できるのではないかと考えるのだ。ところがそこがもう、ある意味ズレてる部分の可能性は否定できない。


絵の中にある『スビンゴールド』という原料をみなさんはご存知だろうか。話を進めていく上で、前提条件として『スビンゴールド』をさらっと知っておいてもらうと、なんとなく言いたいことが見えてくるかもしれない。

僕の知る限り、『スビンゴールド』は二種類ある。

まず『ゴールド』がつかない原料名『スビン』の説明を軽くしておく。

スビン=SUVINはインドで作られたコットンの銘柄で、インド元来種である『スジャータ(SUJAHTA)』と海島綿『セントヴィンセント(St.VINCENT)』を交配させて作られたハイブリッドコットンである。ジャータとセントヴィンセントでスビン。いや正しくはスヴィン。ハイブリッド、、要はスジャータのおしべ(もしくはめしべ)にセントヴィンセントのめしべ(もしくはおしべ)を受粉させて混ぜた種類の綿だ。インドは昔から、人海戦術でコットンの交配を繰り返し品種改良していくクセがあるらしい。環境に適応させてより良い綿花を育て上げるための知恵なのだろう。で、超要約すると、めっちゃ繊維長が長く(4cm)て、繊度が細い。だから育てるのも難しくてあんまり採れない。つまり希少、だから値段が高い。

で、これに『ゴールド』の修飾語がつくのだから、さぞすごいんだろう。と、思うだろう。

僕の知る限り、一種類目の『ゴールド』を名乗る原料は確かに高級そうに聞こえるルーツがある。それはファーストピックオンリーと言われ、綿花が地面から一段目の物だけ集めた物を『ゴールド』と呼んでいる。地面から一番先に栄養を得られるファーストピックは上の段に比べ綿ろう(綿がもつ油分)が豊潤だという考え方だ。なんとなく、『ゴールド』の名にふさわしい気がする。希少種の中の希少部位だ。綿花のシャトーブリアンだ(知らんけど)。

二種類目の『ゴールド』は混ぜ物だ。勝手に誰かがそういう名前をつけた銘柄で、純度もルーツもない。


長いね。

軽くじゃないね。


さて本題。


以前、僕が住んでいる街の百貨店をうろついていて、とあるセレクトショップの商品を見ていた。その棚にはなんとその『スビンゴールド』と銘打ったTシャツが、僕の知る限り一種類目の『ゴールド』では、その値段で出来るわけないだろう的な安い値段で売られていた。自分で言うのもなんだが、綿の風合いを見るのは得意な方だ。その商品を手に取り、スヴィンゴールドの真贋を確かめたくなった。

しばらくして、店員さんに話しかけられた。

店員さん「それ、なんとあのスビンゴールドなんですよ!」


僕は性格が悪い。彼は「なんとあの」と言ったので、僕は「ファーストピックなんですか?」と質問した。店員さんは「あ、いや」と言ってバックヤードへ走って行かれた。しばらく待ったが帰ってこなかった。


僕の質問が意地悪なのは承知している。が、僕くらい繊維にかぶれると流石に店頭で「なんとあのスビンゴールド」なんてと言われると、ファーストピックのスヴィンがそんなに認知されているのかと嬉しくなり、繊維トークを店員さんと楽しみたくなってしまう。そして、そんなに高級品なのにこんなに安くできるなんて〜なんて話を膨らましていきたい気持ちでいっぱいになってしまう。憶測だが、その値段なら、二種類目の『ゴールド』だろう。もしくは噂に聞いた、某社が大量に掴みすぎて値崩れして放出された本物か。


世界的希少種で高級原料のはずなのにそんなに安価で大量に出てしまっては、原料銘柄としてはもはや以降生地屋トークでの殺し文句には使えない。いくらヴァージンの原料価が高くても、末端価格をもう一度持ち上げることは安い物を認知されてしまったら、不可能に近い。つまり僕の中で、あの日をもって、スヴィンゴールドのヴァリューは消えた。

また、一部変態的な素材マニアや服好きをのぞいて、繊維原料銘柄が、商品価値にどれだけ影響を与えているかは基本的に関係ない。着た時にどうか、に対して、その商品価格に納得して買えるかどうかだ。いつも店頭観察をすると、本当にこういった自己反省を促す価値訴求があふれている。綿の銘柄なんて、風合いにもちろん影響はあるが、言うほど突き抜けた差はおそらく一般の方にはわからないと思う。


僕自身何度もぶつかっている壁だが、本当に着てくれる人が『良い』と思ってもらえるような素材作りは、原料スペックに頼らず、出来ること全部盛りにするのではなく、服にした時に価格バランスも取れて着心地の良いと思ってもらえる、頭でっかちではない素材なんだと思う。ごちゃごちゃとウンチクを並べて「だから良い」と言うのは生地屋がやることじゃねぇなって個人的にはすごく思うのである。

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