間に挟まれてサンドバッグで鍛えられた。
中間製造業にとって、お客さんの頭の中と、工場の使用部材やその先の部材メーカーの常識は、未知の領域だ。だから、自分が知らないことをわかっていないと、お客さんに説明できないし、工場からも「そんなん常識やで」と八方塞がりになってしまう。お客さんから要求された、自分の引き出しにないテクニックに関しては、工場によく説明を受けて理解する必要がある。少し知った程度でアクセルを踏むと大事故になりかねない。
例えばラメ糸なんかわかりやすいので、ラメを参考に書いてみると、一口に『130切のラメ』と言っても、糸の太さが同じという訳ではない。
130切(ひゃくさんじゅっきり)とは1inch2.54cmの透明のエステルフィルムにラメの元であるゴールドやシルバーの箔をプリントして130分割でカットしたフィルムの幅のことで、厳密にいうと50G(ゲージ)や70Gなどという厚みや、シングル、タスキなど、フィルムに対して補強用の添え糸の形状や数などが異なるため、130切のラメでも無数に種類がある。
これはラメ糸業者からすると当然で、選定するラメ糸を適切に選べないと、生地の上がりが全然違ってくる。ひどい場合には編めないこともある。
ところが、お客さんにラメを選んでもらうためにラメ糸のブックを貸して欲しいと言われると、そのブックには切り箔の説明などがあまりなく、あっても総合番手(デニール表記)などしか書いておらず、「こちらから選んでね!」と選べる部分を限定しても、違うところから選んできたりしてしまうことがある。企画的にどうしてもその中から選べずに、他の部分から選んできてしまうことがあるのだ。
気持ちはわかる。いっぱい選べるブックの中で限定的に選択肢を狭めてしまうと、(こんなにあるのにナゼ選べない?)ってなる。
どうしてもそのラメ糸が良いということであれば、事前に危険性を説明して先方のリスクでサンプル進行してもらうのだが、稀に上がってきてから「イメージと違うから受け取りたくない」というなんとも言えない状況になりがちである。
いやいや、言ったやん。
「その言葉の説明ではわからないので、現物見ないと判断できません」
まぁわからんでもないが、では新しいものにチャレンジするというのは、誰がリスクを負うのだ。
ラメ糸屋さんは事実をブックに記載している、使用するのはお客さんだ、でもカタチにしていく僕らがきちんと説明できる状態にないと、100%事故が起こる。その時のリスクは、誰にもヘッジできずに全部中間業者にかかってくる。当然と言えば当然なんだろうけど、心情的には辛い部分は否めない。気分はサンドバッグだ。
と、まぁこんな感じで色々と「やったことない」「見たことない」をカタチにしては事故って、その度に知識が蓄積されてきたのである。
未使用の部材やテクニックを試す時には、十二分な予備知識と、理解してもらうための言語化能力が必要だ。きちんと理解してもらうというところがポイントだ。予備知識が潤沢でも、相手が理解していなければ、伝わっていないのと同じだ。
もう数知れずサンドバッグになってきた。ところがまだまだ世の中には、『試したいお客さん』と、『それはやったことない工場』がたくさんある。そういう難関を乗り越えた時、「わぉ!なにそれスゲー!見たことない!」という物を作り出せるのはいうまでもない。(売れるとは言ってない)
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