在庫のしわ寄せ。
今に始まったことではないが、衣料品の在庫を処分することが少し話題になったので、僕の思うところを少し書こうと思う。
まぁ正直な話、生産都合(コストやらロットやら)で増産せざるをえない物もあるので、安易に「作らなきゃいいのに!」という意見には賛同しかねるし、いる分だけ作ってコスト高になったものを今更市場が受け入れてくれるとも思えないので、これらの意見を述べたところで何の解決もしない。
そして実はその不要な服を作るために、生地製造界隈も相当な在庫に圧迫されている。
目に見える洋服の在庫以外に、この国に眠る損失計上していない負の財産は腐るほどある。というか、もう腐ってるのもあるのに『生きた状態』になってるのもある。
丸編み生地がどういう風に作られているかの工程などは普段ブログで取り上げているので、見てくれている人たちはある程度把握してくれていると思う。
でも、アパレルメーカーさんで別注(企画してから必要分だけ製造する)生地をやったことない人たちからすると、普段見慣れている生地屋さんの姿は、色見本がそれなりに揃って、全て在庫があるようないわゆる「パッケージされた生地」を売りにくる人たちばかりだろう。そういう人たちは生地製造の各工場を直接取りまとめて生産をして自社で全て管理している場合もあるし、出入りの生地メーカーに生産と在庫管理やデリバリーを丸投げしている場合もある。
簡単に図解するとこうだ↓(※カラーストックがある生地の商流)
だいたい伝わっただろうか?
で、生地屋さんや生地問屋さんが自社リスク(もしくは生地メーカーと共同リスク)でカラーストックをした企画生地をアパレルメーカーさんへ提案しているのだが、いざ使うタイミングで「この色今在庫ないんです・・・」なんて日には「なんで在庫ない物を提案してくるんですか!!!!」などのお叱りを受けるのである。
お客さんは、おこである。
この『おこ』の連鎖は、川上に逆流する。
生地問屋は自社がカラー在庫バランスを組めていなかった場合、取り急ぎ生機在庫があれば、急ぎ染めて二週間で納品対応できる可能性がある。
これで一旦はお客さんの『おこ』回避できる可能性がある。
しかし、カラーバランスを崩しているにも関わらず、生機の在庫も切らしているともうほとんど『おこ』から逃げられない。慌てて編み工場へ生機生産の指示を出す。
編み工場は糸の入荷から最短で納期を提示するのでこのタイミングで糸の在庫があれば最速一ヶ月でリロードも夢じゃない。気の長いお客さんならここで『おこ』は鎮まる。
しかしだ。
糸がなかったら?
『激おこ』だ、もう『激おこぷんぷん丸』だ。いや『ムカ着火f
待て待て、糸屋さんも頑張って生産したら糸で一ヶ月、そこから編み、染めで一ヶ月、合計二ヶ月で生地アップも夢じゃない。
ところが今の世の中、「在庫ありまっせ」で提案を受けた生地に対して、二ヶ月も辛抱強く待ってくれるお客さんはそうそういない。(この対応を待ってくれたおかげで、商品投入が遅くなり機会ロスとかいう不良在庫を作ることもある)
それに、元々の生地規格が40m巻きで1反の生地なのに、たった3mだけオーダーして「在庫がないなんて!」と騒がれた日には、その3mのためにどのくらいの在庫が出来上がるか発注側には想像できないであろう。
生地の在庫バランスの取り方は各社様々だが、概ね生地の生産ロットを書いた過去のブログを貼っておく。これを参照した上でまた戻ってきてほしい。↓
おわかりいたd
前置きが長くなったが、このお客さんの『おこ』を解消すべく、川上に向かって帳面上の契約残(および現物在庫)というのは大きくなっていく。
生地在庫に対して、生機在庫を余分に積んでおく。
生機在庫に対して、糸在庫を余分に積んでおく。
こういう在庫のしわ寄せは最終的に金額処理される物もあれば、癖の悪い業者だと未払いのまま未引き取りなんてこともある。これはもう完全に悪だ。昨今はコンプラ上このような悪徳業者はいないかもしれないし、難癖つけて逃げ切るような人たちがいるかもしれないしいないかもしれないし、いる。かもしれない。
生地問屋さん各社は基本的には営業倉庫と契約して、仕上がった生地をそこへ一括で引き取り、そこから自社管理で出荷業務を行なっている。しかし。営業倉庫も経費がかかる。保管料やら、出荷手数料やらなんやらかんやら。なのでできる限りの期間、発注した生地は染色整理工場留めで保管管理から出荷業務までをこなしたいのである。
ところがその染色工場の倉庫も未引き取りの加工済み在庫で溢れている。染色工場はたまに僕が大口の加工依頼をかけると「染め釜の予定組ができるまで生機の投入を待ってほしい」という。新規加工用の生機を受け入れる余裕もないほど、カラーストック生地の未引き取り残がある。実際に工場へ行けばわかるが、パレットというフォークリフトで積み上げる台の上に綺麗にヤグラ組みされた反物が地面から天井までいっぱいに積まれているのである。
これを出荷依頼書一枚で「3mカットを本日出荷で」なんて言った日には、そのパレットをフォークリフトで下ろして該当生地が引っ張り出せるまで周りの荷物をどかしながらようやく出てきた生地の梱包を開いて、カットし、また梱包し直してパレットに戻しフォークリフトで積み上げてってバカか!!!早く反物で引き取れ!!!誰がそんな作業するか!!!
しかしこんなやりとりを平気で無料で依頼してくるのである。これは染色工場に向けられた在庫のしわ寄せだ。
また、先日普段お世話になっている編み工場へ行ったら、某生地問屋の生機未引き取り残がすごい量だと嘆いておられた。「100反注文くれて40反ほど残しとる。」と、なんと生機でさえ消化率60%である。(生機で引き取られない物は金額の処理が発注者と済めば『ウエス』と呼ばれるボロ生地を買い取ってくれる業者に二束三文で売るか、お金を払って廃棄処分するしかない。) 染色工場に残してある生地の在庫が消化率どのくらいかは知らないが、その手前の生機でさえ1品番でこのくらい残ってる物もある。カットソー業界だけでこれだ、布帛のことも考えたらとても恐ろしい。
で、あれば、その生地を編む(織る)用の糸なんて、もう何トンでは効かないレベルで在庫がある。
まぁ糸は、逃げ道がたくさんあるので、この在庫が『腐る』ことはあまりないが、それでも生地問屋さんの別注糸を受けていたら、染め上がりの生地在庫より生機の方が多く作るし、生機よりも糸の方が多く作るので、かなりの量を残される危険性がある。実際に糸で残しまくってるメーカーさんは千駄ヶ谷を歩けば簡単にぶつかる。
このように、年間何億着という不良在庫の前段階でこのザマだ。でも、このしわ寄せを無視してでも在庫を持っていないと、糸も、生機も、生地も売れん残念な世の中の仕組みがある。
これを避ける為に品番数減らして、奥行きが出るような商品に絞ると、店頭商品の同質化は避けれらない。だから売れもしない差別化の為に品番数は増える。品番数ごとに生産ロットが絡む。在庫が増える。ゴミも増える。コストも上がる。マジウケる。
サスティナビリティ?
そうね、大切だよね。
僕らはどうしたら良いんだろう。
まずは目先の売り上げを諦めるしかないんじゃないかってことになる。でも企業はそれじゃ困るよね。
結局は仕組みが作り上げてしまったゼロサムゲーム。こんなことまで考え出したら商売しにくくなるけど、無視もできないから、なんか考えなきゃなって思って僕の夢の話に繋がるんだけど。
またこの辺は追い追い。
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