悪い噂の足はめっちゃ早い。

僕が前職に入社したてで、上司や先輩のフォローがメインの業務だった時の話だ。とある仕入先様に無自覚な不義理をぶちかまして有難いお説教を頂戴した。

要約すると、悪い噂は早く広まってしまうので、気をつけろという話だ。


当時の僕はまだまだひよっこで、会社として利益を残すためにどうしたらいいかを優先して考えていた。というか、まぁ人生の重心が『音楽で生きる』にあった。だからまずは自分が自由度を高めるために、社内的に「こいつ、出来る」と思ってもらうための働きをする必要があると考えていたので、自分が介在することで会社(使用人)が僕を雇ったメリットを感じてもらうことを優先していた。それはまだまだお客様の顔も、仕入先様の顔もしっかりと見れていない時期のことだ。


発注書には単価や納期を書き入れる欄がある。売買契約の基本だ。が、その欄に一方的な都合を書き入れた。いわゆる安くて早いのを。それはもう、超一方的なやつを。何度も言うが、物理的(そして受け手の心理的)な道理がわかっていない時期の話だ。

ファックスを流した後間も無く、いやファックスまだ届いてねーんじゃね?くらいのタイミングで仕入先様のご担当者様から電話で怒号が飛んできた。


「テメェ、もっとまともな紙書いてよこしやがれ!」


こんな優しいもんじゃなかった記憶があるが、とりあえず受話器が割れるかと思うくらいの大きな声でお怒りだった。

発注書に入れる単価や納期は、基本的に事前の合意があるものを書き入れるのがスジだ。しかしながら上司から預かった仕事を、なんの調整もなく、一方的に『希望』を入れたのだ。今思えば『希望』ならかわいいもんで、『希望』という名の下請けイジメ的なノリになってしまっていた。


右も左もまだ箸を持つ方ってどっちだっけ?レベルだった僕の行いは、明らかに行き過ぎていた。無知故の、ある意味怖いもの知らずといえば聞こえのよい、ただの愚行をかましてしまっていた。

その仕入先様は愛情深くとてもお優しい方で、その怒号の後、こんこんとこの業界で生きていく術を人情味たっぷりで教えてくれた(嫌味ではない


曰く彼も、とある大手お客様のために足繁く千駄ヶ谷に来ては商売の餌に釣られて最初は無理難題をなんとかしようと、一生懸命仕事を受けていた。ただどうしても無理は祟る。納期は遅れ、利益も残らず、泣く泣くお客様に譲歩の交渉すべくお願いに上がった際にも相手は態度を変えず「無理なら他所へ出すで、ええんか?」で一蹴されたそうな。そんな帰りの千駄ヶ谷駅ホームで千葉方面へ向かう電車が来るところへ飛び込んで自らを亡き者とし楽になりたいと思ったことは一度ではないとのこと。

後日、その発注者は大手の看板を外し独立するも、仕入先様に恵まれずこの繊維業界にいられなくなったらしい。そしてその大手に対して他の仕入先一同も積極的に仕事を受けなくなった。金融機関の与信面で商社が退くみたいな話ではない。仕事は仕事だが、人道を外していると、仕入先一同が判断したとのことだった。


悪い噂というのは、自分の耳に入ってきにくいものである。そして形として現れる。知らぬ間に誰もついて来なくなってしまうのだ。

会社のために意味のある動きをするというのは、社内だけならまだしも、一方で会社の看板を使って対外的に交渉ごとを行う場合には個人だけでなくその会社の看板ごと取引先にイメージを植え付けることになる。ここが利己的になると、個人はおろか、会社ごと総スカンを喰らうことにもなる。

そういうことを、こんこんと教えてくれた。


大手のように所帯が大きくなると、重箱の角をつつくような仕事を探す人が出てくる。それはその人がきっと会社のためを思ってのことだと思う。または自分が仕事をしていると社内向けのアピールを孕んだ「これが(会社にとって)良いことをしている」という意識であるが故に、対外的に、人道的にまずいやりとりであったとしても本人の正義が正義として通ってしまう。


会社に利益をもたらすための動きは必要だ。ここに無頓着だと結構やばい。でも、その利益とは本来、お客様に喜んでいただいた結果で積まれていく人徳のカタチではないだろうか。青いか?青いのかもしれない。

でも、一旦利己的に積み上げられたフェイク利益の代償は、仕入先様を遠ざけてしまい、いずれはモノを作れなくなってしまう危険性がある。

納期の圧縮や単価の交渉は『適宜』双方合意が良い。当たり前だ。無理を強いて、大事な仲間に苦い顔をさせるような仕事はしたくない。

ulcloworks

ultimate/究極の clothing/衣服を works/創造する ulcloworks

0コメント

  • 1000 / 1000