許容の範囲。

昔話であるが、僕の前職は丸編み工場であった。前職の名誉のためにも改めて念押しするが、これは昔話であって、今はちゃんとしている。と、思う。


僕は無知だったので、現場に入れてもらったことはもう素晴らしい経験だった。結果、糸長を指定して度目を設定するという高度な依頼もするようになった。これは現場の人にとっては設定が楽になる反面、誤ってズレた時の動かぬ証拠ともなる。物理的に糸を流し込む距離を指定するのだから、感覚的に薄い気がするとか、厚い気がするとか、そういう雰囲気で違うということを指摘するわけではなく、絶対的な数字で違いを指摘することになる。これはもしかすると、少々現場にとっては厄介な人間の部類になりかねない。


ある夏のサンプルで、某社の展示会向けに特殊機能繊維の生地を使ってもらった。好評を博し、量産オーダーもそこそこな数量でまとまった。が、たまたまそのサンプル依頼をした時に、僕は現場に糸長指定をしていなかった。いわゆる適度目ってやつで流してた。で、その度目で上がったサンプルで量産オーダーにつながった。当然量産依頼はサンプルと同度目である。


ところが、量産生地が上がってみたら、なんか薄い(ここはとりあえず感覚)。嫌な予感ってのは割と当たる。というか、糸長を測ったら7%も長かった。糸長がズレたら何が起こるかイメージ沸きづらいと思うが、要は度目が7%甘いのである。

糸長とは、編み機を一周する間に機械に編み込まれる糸の総長のことで、30/1で30インチ28ゲージの編み機だったら、適度目は720cmとかそんな感じの数字のことだ。

編み機に送り込まれる糸の長さが長くなると、形成されるループは一個あたりが大きくなるので、度目としては甘くなり、生地は薄く、軽くなる。


僕の中ではこの数字が7%ズレるというのは、感覚的に『薄い』と完全に感じられてしまうには十分すぎる証拠だったのだが、そのことを当時の現場に伝えると「そんなもん誤差やろ!押し込んでこんかい!」と逆鱗にふれ、渋々お客さんの元へその度甘の生地を持って伺うということになったが、当然お客さんは「なんか薄いな」とおっしゃり、僕もその点を承知していた上で、ご使用のご検討をいただけないかと交渉させて頂いたところ、「いや、山本くんが違うって思ってるんなら、違うんだから押し込みにきちゃだめじゃない?」と、優しくさとしていただき、そりゃそうだと強い気持ち(現場に対して)が湧き上がり、「すぐ作り直します!」と約束して会社に戻った。


現場との折り合いをつけ、なんとか再生産を承諾してもらったあとは金の処理だ。

作ってしまった甘い生地はお客さん別注だから他所へ売りどころがない。経理からも、「〇〇さんやったら、うまいことお客さん説得して通してもらったんとちゃうんか」と、やはり押し込む方の正義みたいのがあって、憤ったのを確かにおぼえている。そりゃそうだ、会社からしたら、お金無駄にするなら引き取ってもらう方が損が少ない。でも、そんな理念で存在する会社をお客さんが支持してくれるだろうか。


何度もいうが、これは昔の話である。


莫大小業界は、10%は誤差という認識が、昔はあったように思う。

確かに伸び縮みする素材だ、確約数値なんて絶対に口が裂けても言えない業界だ。生地幅も、一反長も、製品検寸も概ね乱寸がある。これに対する許容範囲というのは、お客さんによってまちまちだが、10%はおそらく今の時代ではどこも通らない。生地の上がりに関して、こうやって数字調べてズレを指摘することができるのは限られた人だが、そこを逆手にとって「こんなもん」という風潮が昔は確実にあった。色ブレとかもね。


今はその辺をしっかりできる工場でないと、なかなか商売が難しい時代だ。←ここが言いたかったこと。もちろん再現性が完全な状態なんて、気象条件なども含めて完全に物理的条件が揃うことはないから、『ブレ』は出る。でも、今のお客さんはコレがコレで上がってこないと納得しない(悪口じゃない)。許容範囲のズレは昔よりすごく狭くなってるので、その辺を改めて意識して製造に当たられたし。

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