それ、オレらが決めることなんで。

昔、二十代中盤頃、生地問屋さんや商社さんを相手に商売させてもらってた頃、彼らより生地作りの知識が勝ったと自負していた僕は、生地を作り上げていく工程や原料スペックなど、他社にないであろう要素を詰め込んだ生地を提案することが、お客さんにとって良いことだと盲信していた。

商談時の殺し文句は「〜だから価値があると思うんですよ」だった。知識に裏付けされたものであるから『価値がある』と相手は思ってくれたし、実際にオーダーに繋がったりもした。


問屋さんや商社さんが、一体どういうエンドユーザーと繋がっているかなど、当時はほとんど気にしていなかったので、僕の中では『スペックをきっちり伝えれば価値観を認めてもらえて生地が売れる』というロジックも成立しつつあった。そう、当時の僕の中では、生地は売れるものだったし、商談の時に湧いてもオーダーしてこなかった人に対しては「価値のわからんやつ」というなんとも失礼なレッテルを貼っていた。

事実、その先のエンドユーザーでの売れ行きなどは考えたこともなかったし、売った問屋さんがその先のお客さんに売ったら終いで、後はその繰り返しだった。だから、実際に店頭で『売れた』ものは『おかわり』がきていて『それ以外』は引っ張られることなく消えていったことにも気づいていなかった。なんとなく目新しい物を『価値がある』といっては提案し続けていたが、ある日その考え方を全く変えざるをえなくなった。


ストリートブランドのお兄さんたちと直接商売するようになったのはある種の運命だった。初めての商談で自社が普段作っていた新作生地を担いでは、いつも通りにその生地のスペックには『価値がある』と大風呂敷を広げた瞬間に言われた一言で衝撃を受けた。


「いや、それがカッコイイかどうか決めるの、オレらなんで。」


至って冷静に言われたけど、その時かいた変な汗の量と、どこかですごくモヤモヤが晴れた感じは忘れない。

メンズ市場は、尖っているようなブランドでも意外とベースが結構固まってて、いったんコレといった感じの生地を気に入ると、ものすごくリピートしてくれる。それは誰がなんと言おうと結果主義で、彼らが彼らのお客さんと一緒にブランドの軸として『コレはカッコイイ』と決めた結果として当然のように『売れた』から『おかわり』をするのだ。つまり『売れたか、それ以外か』で次シーズンの素材軸続投を決める。これは当たり前だけど、当時の僕にはとても新鮮で、やり方を全く変えるきっかけになった。

その『売れた』ものは、ブランドの『カッコイイロジック』の中に浸透していて、それが軸になってある一定の素材選定の要素をルール付していくようになる。そして、そのブランドの素材はこんな感じという素材感もファンにとってはそのブランドたらしめていく。ちょっと何言ってるかわかんないかもしんないけど、そんな感じ。


これはどのブランドにも通用する話ではないけど、今僕が長いことお付き合いさせてもらっていて、それなりに息が長いブランドの人たちには共通している。そして、そんな彼らに「こういう感じやりたいんだけど、オマエならどうする?」って聞いてもらえるようになった時の嬉しさもずっと忘れない。一緒に『カッコイイ』を作る仲間だと認めてもらえたんだと思った。服を作っていくのって、こういうチーム感が出ると、下請けでもめっちゃ楽しいのよ。

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