トラブルゼロの幻。

アパレル製造業をやっていて、トラブルにあわなかったなんて人は、おそらくいない。

もしいたらそれは、とてもラッキーな人か、後半であげる要素を全て兼ね備えている上に超ラッキーな人かのどちらかだろう。それか、もう本当にラッキーな人か。


とりあえず、今はインターネットも発達して、指示を出す側の人も指示を受ける工場の人たちも概ねスマホを持っているから、仕事上のコミュニケーションに関してはどんどんと進化していくだろう。

そういうのを頑張ってやってる人たちもいるから、その辺は今後も期待していきたい。

でもね、ツールが進化しても、扱うのは結局『人』なので、そこんとこよろしく。


僕の経験から少し検証してみたいと思う。


僕の社会人経験は編み物を生地という状態で売る会社で始まった。そしてそのまま、編み物の生地を作ってそれを服にして売る会社をつくった。編み物は莫大小(メリヤス)と呼ばれ、その素材の特性上、伸びるし、縮む。だから絶対的既定値がない。ないわけじゃないけど、心得みたいなレベルでしかない。

お客さんから入るクレームのほとんどは、この伸びや縮みに関することだ。でも先輩や上司に相談しても「鉄や紙じゃないから」ってことで、相手に許容範囲を求めるのが精一杯のクレーム防御線だ。

(これはとても厄介なところにきてしまった・・・)と思ったが、あとの祭りなので、とりあえずそういった不確定要素を省くために『安全な有効範囲』を確定させて商売に臨むのだ。これである程度はお客さんからのクレームは減る。けどそもそも繊維は数値規格化が困難な産業だからね。相手が完全な理解者でなければ、クレームは減っても無くなりはしない。


そして工場とのやり取りはトラブルの宝庫だ。

糸を20kgしか投入してないのに手書きの明細で22kg分の生地を編んだ納品書が送られてきたり、ロスを5%みて糸を投入したら、発注数より必要ない分勝手に増産してくるし、反数が少なければそもそも発注と捉えてもらえてなかったりするし、ボーダーの生地を仕上げしてるはずなのにぐにゃぐにゃに大きく弓なりに歪んだ状態で仕上げしてくるし、そりゃもう、色々あった。書ききれない。地域によってはあからさまに平気で嘘を付いてくるところもあった。ほんと、いまだにその癖はある。まじいい加減shinebaいnoゴホンゴホン!!


こういう仕入先とのトラブルを防ぐ(嘘を見破る)ためにも、僕は製造の知識を持つことにチカラを入れた。


時間はかかったが、これは一定の効果があった。副産物として、お客さんに対してもしっかりとした裏付けを持って提案できるし、工場に対してもキチッとした数字などでの指示ができるようになった。

何より、発注書に明記する数字や文言がしっかりとしていて、仕入先からしたら「これで間違えたらプロ失格」と思わせるほどの完璧な指示書を作ることができるようになったし、上司からも徹底させられてた。ペーパー上で指示内容に穴がないようにしたのだ。


それでもトラブルは起こる。

紙に書いてあることを守れないなら、その時起こったトラブルの代償は仕入先に向かう。これは契約と考えれば至極当然の流れだ。

しかしこれが、トラブル頻発のトリガーになるんだ。


当たり前の話だけど、工場や生産現場は、トラブルを起こそうと思って起こしているわけじゃない。色々な不可避要素があって、納期が遅れたり、クオリティが安定しなかったりする。

例えば産地で起こることといえば、地場産業者の強さだ。

東京から発注している僕らの仕事がお行儀よく並んでいても、現地でグルグル工場回りしているテーブルメーカーが工場内の優先順位を入れ替えることなんてのは容易い。現場行って話して、ちょっと作業して「じゃよろしく」っていえばすぐだ。彼らの方が付き合いも長ければ地の利もかなりある。


ルール違反だよね。その通り。


でもルールは簡単に破られる。彼らは目に入る人たちの方が怖いのだ。彼らとの付き合いが切れることの方を恐る。(もちろんみんながみんなではないよ)

そうやって邪魔されて余裕なくなって間に合わせようとして焦った結果、空いてる工場に外注したりして、不完全な物が出来上がってくる。


どう考えてもその工場が悪いんだけど、じゃ、起こったクレーム金額を飲んでくれるかというと、ここからは人間の感情論になる。

「そもそも納期きつかった」とか、「ほんとはやりたくなかった」とか、「難しい仕事を一方的に押し付けてきた」とか、色々言い訳してくる。気持ちは、わかりたくないけど、まぁわかる。

だって工賃だもん、委託加工というのは、加工に関わった領域の賃金しか得られない。(つまり安い)

だから完成品になって返ってくる金額に耐え得るほどの体力がないんだ。


自業自得だと思うでしょ。でも、それでクレームどーんとぶつけちゃうと何が起こるか?


場合によっては倒産するの。

小さい工場一個潰すのなんて簡単だから、返済不可な金額でクレーム入れたら一発だから。

そしてその経営者はなんて言うと思う?

「〇〇(クレームぶつけてきた会社)に潰された」って言うよ、周りの人たちに。

そうなると、工場がどんどん引いていってしまう。仕事受けても作れない状況になる。

倒産しないまでも、クレーム金額を納得できないうちに有無を言わさずに飲ませてくる業者に対しては、必ず悪い噂を立ててくる。

そうして、クレーム処理や金額に限らず、人として気に入ってもらえなかった奴らは、そうやって悪い噂を立てられて、工場から「嫌なやつ」とレッテルを貼られ、仕事も前向きに受けてもらえず、優先順位が下がり、トラブルが頻発する。

キングオブ『持ってない奴』に君臨することになる。もう言った言わないとか、発注書完璧とか、エビデンスとか、そういう形式上の正義じゃない、単純に『嫌いだから』うまくいかなくなる。しょーもないけどこんなもんだ。所詮は人間さ。


だから、その不可避要素を理解した上で、寄り添ってあげることで、彼らの置かれた状況を素直に話してくれるような関係性を築けるのが望ましい。クレームを金額で解決するときには、工場側が納得できる状況になるまで説明をして話あって、工場が納得してから赤伝を切るんだ。めんどいけど。


大切なのは、お客さんにちゃんとした状態で物を納めることだから、彼らの事情で事故るなんてのは、こっちだって気分が悪い。でも依頼するのは自分なんだから、そういう相手の人間性も理解していかなければいけない。

このような行い(知識と人間関係)の積み重ねで、工場との信頼関係も生まれ、晴れて優先順位が上がって行くのだ。そこへ重ねて類稀な幸運の持ち主であれば、トラブルゼロは幻ではないかもしれないとかすかに思ったけど、たぶん幻だな。

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