素材トラブル責任の領域。

僕の会社は、どのタイミングでもお客さんに要望された部分でお渡しするスタイル。

元々は丸編み生地メーカーなので、「生地くれ」と言われれば、生地渡し。「服にしてくれ」と言われればOEMで服渡し。他にも色々やってるけど、とりあえず製造に関して、素材トラブル責任の領域をどう考えるかを書いてみる。


弊社は製品納めの際、最終納品状態が服なので、トラブルに対する一切の責任は仕事を受けた時点で全て弊社にある。

自社で生地作りから入る際は完全に水平分業スタイルなので、箇所箇所で問題があれば連絡をいただける。そのトラブルの内容によるが、進行して最後に補修する場合や、取り返しがつかないと判断した場合は、そこからやり直したりすることで最終お渡しするお客さんに迷惑をかけない事ができる。(とはいえ、色々な人たちの目をかいくぐり、最終検品でも発見できない軽微なトラブルはゼロではないが)


生地売りの場合でも編み工場から問題があれば連絡をもらえるし、染めで問題があれば染工場から連絡がもらえる。生地メーカーなら当たり前の動きだ。その問題内容によってはお客さんに状況を伝えて使用してもらった後に処理を考えるか、最初から作り直すかなど、状況に応じた対応をしている。

もし生地検査で発見出来なかったような素材トラブルが服になってから発覚しても、「それは裁断しちゃったオタクが悪い」とは言わない。「もっと早く気づいて欲しかったなぁ」なんて愚痴はこぼすこともあるけど、本当に生地不良なら、ちゃんと補修対応する。


しかし巷の生地屋さんや問屋さんは、「生地を売ったら終い」のような対応をしている人がたくさんいらっしゃる。

そうじゃないと思いたいけど、たくさんいらっしゃる。

で、彼らが生地を提案する先がアパレルメーカーさんで、縫製する工場が生地を買い取るスタイルの時、傷や汚れなどの問題が起こった時、責任の領域は非常に曖昧である。


なので、状態によってどの場面要因だったかを知っておくのは非常に重要である。

少し事例を箇条書きしてみる。


丸編み工場営業時代、工場だから生地問屋さんに対して、生機(糸を編んだだけで染めてない状態)売りや編み工賃(糸はお客さんから入れてもらって編むだけ)仕事があった。生機売りや工賃売りで起こり得るトラブルとしては、

・『飛び込み』=生地に別繊維が編み込まれる、もしくは糸自体に他繊維が撚り込まれる(これはコンタミと言って糸屋マターだが糸種によっては不可避な場合のものもあるのでノークレームということが多い)

・『カブリ』=編目(組織)が崩れてる。糸が硬すぎてニットしきれなかったり、冬場寒い時に針の動きが悪いと起こりやすい。

・『針折れ』=編み針が折れて縦に傷が走る。糸にネップがあったりすると針の頭を飛ばすことがある。

・『横段』=これは糸要因だったり色々と原因が重なるトラブルだが、編要因で起こるとしたら、糸ロットを混ぜて編む時に糸の立て方を散らさずにまとめておくとロット差で染色後にボーダー調の染めムラみたいな感じになる。糸ロットを混ぜる場合は反で分けるか、生機検反の時にブラックライトを当てるとわかる。先染めの糸を編んでも横段が起こることがあるが、それは糸染めの内外差といって、チーズ染色の場合、糸巻きの外側と内側で染まり方に差がある時に、同色で濃淡が出ることがある。というか、先染め無地は横段がほぼ出る。

・『生折れ』=丸編みは筒状に編まれて巻き取られるので二箇所折れた状態で巻き取られる、その巻き取りの圧力が強すぎると折り目が消えない場合がある。

・『油汚れ』=編機の機械油が染み付いて染めでも落ちない時がある。縦目に沿っている場合はほとんど編み要因だが、他の形状の場合は染めムラや加工要因汚れと判断がつきにくい。グレーゾーン。

・・・あたりが編み要因としては代表的なものだ。


生機売りや工賃売りでは、アパレルメーカーと商売にならないので、染色まで手掛けて生地を商品として売る生地売りの時は生機要因に続き、染色で以下のトラブルが考えられる。

・『染めムラ』=そのままだが、染色にムラがあり一反の中に色差が出てしまう事故。範囲が広くて緩やかなムラの場合、検反で発見出来ず、服になった時に中稀(ちゅうき)と言って袖と見頃の色が違うなどのトラブルが起こる。

・『染料飛び』=検査で飛び込みと判断されることもあるが、小さな点で他の染料が飛びついている状態。

・『汚れ』=加工要因で起こる汚れは、染色後の生地を仕上げに移動させる時に台車からはみ出ていて地面を引きずってしまい汚れが着いたりする。

・『生地目曲がり』=斜行という言葉を使うこともあるが、横目が蛇行や湾曲している場合がこれ。薄手や重い生地の生地幅を引っ張れない時によく起こる。

・『スレあたり』=染色機の中や、スカッチャー(開反機)や連続タンブラーなどの乾燥工程で、生地が機械設備に当たり摩耗することで、スレてしらっちゃけたりする。

・『毛羽』=スレあたりと同じ原理で生地全体がけばけばになっちゃうこともある。

・・・などなど。加工トラブルもかなり多い。


これらが複合的に起こることもあるし、全く起こらないこともある。

いくら欠点を検査で検知していて、検査表が添付されていても、裁断の現場を見たことがある人ならわかると思うが、細かい傷をいちいち避けて裁断することは不可能に近い。生地屋さんはそれでも「いいとこ取りしてください!」なんて呑気に言ってくる時がある。これは無神経すぎる。

少なくとも、傷の現状を把握した上で再発防止に努めつつ、起こってしまったことを詫びた上で、早急に対策を講じることが求められる。


初期段階で発見し、店頭に出るリスクを抑えることができれば大きな問題になることはない。が、クセの悪いメーカーさんが間で絡んだりすると、生地要因ではない場合も生地要因にしてクレームをぶつけてくることもある。だから生地屋も不用意なクレームを受けないために防御策に必死だ。

実際にトラブルが起こっていなければ何も言わないのが普通で、製造納品は基本的に双方の性善説で成立することなのに、悪意を持った業者が一定数存在した過去から、生地屋はクレームに対する反応がすこぶる悪い。そりゃもう、すこぶる悪い。

基本は「本当に生地が悪いのか?」というスタンスだ。まぁこれもわかる。実際にクセの悪いメーカーはいる。

生地を納めてから半年以上も経ってから、店頭引き上げてきた商品の糸引け(試着や移動で引っ掛けたような傷)や皮脂汚れなどを『生地要因による初期不良』として返品買取を強要してくる業者もいる。実在する。(実際にいた)

そのような期間をかけてお店にいたであろう商品を強制的に返品してくる人たちがいたから、仮に生地不良による初期不良だったとして、「検品で発見できなかったのはもはや生地要因なのだろうか?」という疑心暗鬼に陥り、お客さんに対して敵意を持つようになる。このマインドはおそらく多くの生地売り人間たちに色濃く根付いているはずだ。

これが生地屋がクレームに対して腰が重い原因の一部だと、僕は思っている。


どちらにしても、起きてしまったことを解決することが優先で、その原因がどこにあるのかを理解している場合は処理も対応も早い。

生地で不良要因のサンプルが取れる場合は、それを各セクションで検証させて要因をはっきりさせることも可能だが、基本的にどの工場も自分が悪いと自己申告してこないのが普通である。これを「自分のところが原因です」と自発的に認めてもらうには、各工場といかに円滑なコミニュケーションを普段から取れていて、互いに信頼し合っている関係性を築けるかがキモだ。

信頼は自らトラブルを申告しやすい環境をつくっていくことができるかで深まっていく。

コントロールする側の知識が一定以上あり「嘘はつけない」と認てもらい、クレームに金額が絡む場合でも「事後の商売で解消して行こうな!」と取り組みとして明るい未来を語り、それを実績を重ね実現することだ。


結論、取り組みがうまく出来ていない間柄では、素材トラブル責任の領域はグレーのままで闇の中に葬られることが多いので、素材製造上トラブルが起こり得る場面を理解していく知識があれば、先んじてデメリットも伝えることができるし、トラブった後も動きが早いよ。ということ。


また今度具体的な事例を取り上げて詳しく書いてみてもいいかも。


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