職出しの不安。

糸でも生地でも服でもなんでも、作ってもらうには各工場様への依頼が必要だ。今回は個人で生地を選んで買って自分で切って縫って商いをされている方々ではなく、ある程度まとまった数を外注している方に向けて書くので依頼が必要だという前提で話を進める。

生産管理は依頼の仕方でほぼ決まるのではないかという持論がある。

僕自身が工場現場上がりだから、工場現場の人たちの気持ちは痛いほどよくわかっているつもりである。どんなに腕の良い工場に依頼しても、依頼の仕方が悪ければ物の完成度はイメージから離れていってしまう。

現場に見学でも行ったことがある人はわかると思うが、工場現場には自分たちの依頼以外の案件も山のようにある。つまり案件が山ということは、物理的に物が大量にある。

自分の依頼したものが今どのステータスなのかは、仕掛かっていれば一目瞭然だが、まだこれから手をつける状態だと投入資材がどこにあるかもわからない。他所の案件と一緒に山になっている原材料を見ると僕は不安でしかない。でも、信じるしかない。

なぜ不安になるのか。

それは僕らが机上で取り扱っている生地品番や付属品番、生成り原糸や原料でもいいんだけど、記号化されているはずの共通情報が、入荷物に付いている番号と微妙に違ってたりするから。

仕入先から工場へ直送で手配すると、出荷明細くれるのが当たり前なんだけど、たまにくれなかったりする輩もいる(というか多い)し、最近はネットオーダーできるから出荷明細自体がウェブ上で発行されているケースもあり、入荷物に同梱されている入日記(倉庫の管理明細)とペーパー上で見た目の相違があったりもする。

そうなると、工場さんがそれぞれの物の入荷をきちっと使用品番にあてがうことができるかどうか、という不安に襲われる。

この不安を解消するには、職出し(依頼)するために一度資材を全部自分で集めて、材料をまとめて工場投入するのがベストだが、物量がハンパないのであまり現実的ではない。

あと、資材が揃わないケースも多いから、結局投入はバラバラになったりする。そうなると尚更、入日記と出荷明細の目視一致は重要な情報になる。

だから僕らは依頼する時に完成品番ごとに使用資材表を作って仕様書とパターン、発注内容と数量、目視でわかる色展開が入った絵型などをセットで書類作成するようにしている。可能なら、書類一連は紙出しした時に吐き出しサイズが統一されるようにし、さらに管理が不安な工場には表書きに使用生地の色スワッチを貼り付けて送る。(これは本来当たり前なんだけど、できない人が多いから僕らのような存在が必要になる)

この時、メールなどでは一回で連絡を済ませたい最近のタイパ的なそれのせいで、一個のメールに多くの品番や情報を入れ込む人がいるが、これは工場直でやり取りする場合は悪手だと思った方がよいかもしれない。見る人が見る気を削ぐような重いサイズのメールや文書は、工場作業の傍らで指示を確認していく現場の人からすると、後回ししないと無理って思われる代表格だ。

何を隠そう、僕ら中間業務であるOEMでさえ、日中はこれら職出し作業に追われるので、腰据えて解読する必要があるメールなどは夜になってからちゃんと見ることだってある。

工場現場の人なら日中は現場作業に従事するので、朝と昼と夜メールを見て段取りをとるというリズムの人が多い。だからメールで送るなら一件一品番、それに対するやり取りを返信で重ねていくスタイル。なるべく目視で直感的に理解できる情報内容を心がける。

それでも日々リアルタイムで工場から質問の電話がかかってくる。それはまさに今、それをやっているところだから後回しにしてはいけない。タイムイズマネー。労働集約型の産業は成果物の水揚げが収入源なので彼らを止めることは彼らのお金を奪うことと同義だ。

そこまでしないといけないのかよ、工場の人もちょっとは考えて情報整理してくれよって思うかもしれない。そう思うのは自由だし、それができる工場は大変優秀なので、工賃に全部跳ね返ってくる覚悟があれば、いくらでも文句言えばいいと思う。現場にいたら逆の文句出てくるからね。この金額でそこまで求められるのかよって。

かつてとある小規模起業家がちょこっとアパレルやってみっかってことで、素人なのに生地作るところから工場直で凸ってトラブル発生し、それぞれの工場の対応に憤慨していたことがあった。「僕らは素人なのに、プロである現場の方は気を回して問題解決の提案してくれないもんなんですか？」って。

未経験ながらいきなり工場凸に関しては、その気概は素晴らしい。一方で、依頼の仕方がわからないまま着手して問題が発生した時に解決提案ないのか？っていうのは、依頼の仕方が問題だったと言わざるを得ない場合の方が多い。いやもしかしたら、着手前に事前告知があったかもしれない。このやり方だとこうなっちゃいませんか？的なのが、専門用語で。

はたから見る業界人だったら、それ繰り返して怪我しながら大きくなっていくんだよって心持ちで陰ながら応援スタンスとれると思うけど、別にアパレルのプロを目指してるわけじゃない垂直立ち上げを目指すベンチャー思考はこれらのコミニュケーションコストロスを待てない。

話が脱線したが、現場からすると管理もコストなので、純工賃で双方納得の着地をしたいなら、手間は依頼者が受け持つのは至極当然の流れになる。それが時間的にできない人が多いから、OEMに頼っているメーカーさんがある。材料等の手前仕入れがなくなる分、ファイナンス面でも助かるし。

情報は簡潔に、かつ目視で理解しやすい状態で、現場入荷物と齟齬がない明細と出荷連絡。依頼文面の体裁を気にしすぎて変な敬語がいっぱいついて情報をボカさない。これを意識すると良いかと。でもね、やってみると一個一個結構時間かかるからね。できないって思ったらOEMに頼るって選択肢もありだと思うよ。