サプライチェーン。
このブログをお読みの方の多くは、日本国内の繊維業界におけるサプライチェーン構造をよくご理解されていると思うが、今回はそこをあえて掘り下げてみようと思う。
なぜなら5年ぶりにお電話くださったお客様から過去定番だった素材の生産依頼があり、編み工場様の廃業をお伝えするとかなりお困りの様子だったからだ。
個人的には、廃業されることでサプライチェーンが機能しなくなるという不安を煽るのはあまり好きではないが、買い支えるほどの馬力を持ち合わせない僕らのこの非力さをどこかでしっかり、各人が自覚する必要があるとも思う。
サプライチェーンとは、供給連鎖のことであり、衣料品業界では『川上・川中・川下』などと分けられていたりする。
川に例えられている説明として過去の図解があったので下記画像をご参照されたし。
ご覧の通り、原料(ここではワタ等の資源を指す)に始まり、糸にしてくれる工場→糸を染める/糸を撚り合わせる/糸を編んだり織ったりする前に製布しやすくする前処理だけを請け負うなどの工場→織ったり編んだりして生地にする工場/生地を染めたり洗ったりする/仕上げだけ請け負おう/収縮安定させるなどの生地染色整理工場/二次加工(プリントなど)→ようやく生地として完成。
そこから、裁断だけする工場もあったりするが、一般認識では縫製工場に入り服に加工されていく。ニットの場合は上記生地製造段階が編み立て成形になり、リンキングや縫製、縮絨などを経て服になる。その間に副資材(ボタンやファスナー、ネームとか色々)業者が複数に枝分かれしており、それぞれの先々にもたくさんの供給連鎖がある。
ようやく服になって流通を経て店頭に並ぶわけだが、行き着く先の販売窓口である売り場などでも「どこそこの百貨店が数十年の歴史に幕を下ろす」とニュースにもなったりして惜しむ声が聞こえたりするのも、一種のサプライチェーンの崩壊だ。
生地になる前の供給源にまで話を遡らせて、たとえば今回の『昔定番だった生地をもう一度やりたい』というリクエストに対して、編み工場が廃業してしまったので当時のそのままを再現できないという問題にぶち当たる。
複数の歯車を噛み合わせてようやく動力が成立している機械構造の、小さい歯車が一つでも欠けたら動かないとイメージしてもらったら伝わりやすいだろうか。
ただ一つの服を作るために、一要素がなくなってしまうだけで作れなくなるというのは、会社だけに限らず、パタンナーや設計士、機械を触る技術士も含めて、一人の人にまで枝分かれしていくほど細分化されていると考えてもらった方が、今の日本の繊維業界バランスの不安定さを理解できるかもしれない。
供給連鎖は川上から下までと表現されているが、僕のイメージはこれらが水源としてイキイキと流れるには、お金の流れが川下から川上へたくさん淀みなく流れていく必要があると考えている。
考えているというか、そうじゃないと産業事業体として成立しない。経世済民は需給のバランスで成立していると考えれば至極当然なので、スポット案件つまみ食い程度の発注くらいで一業者が生き残れると考えるのは普通ではない。
実需がほとんどなければ供給元も枯渇せざるを得ないのだ。
産地を守る的な活動を外側からやっていこうとする動きがあるのは歓迎だが、これらの理由から、概ね破綻している例をたくさん見てきた。自助努力が足りない現実もある。誤解を恐れずに言えば、お金があるうちに器用貧乏でも需要を満たすために不得手な分野にもチャレンジしてきた人たちが幾分その体力を維持しやすい環境になった。
肩肘張って一点突破でやっていこうとしたところの方が、今は(というか長いこと)弱い。もちろんその分野で作り出す物は素晴らしいのだろうけれど、価値を価値として認められる市場を得られるまで保っていられるかどうか、その前に安価な代替え品が市場を取ってしまえば、残念だけど残ることは難しい。
だから、お客様に対してある程度カテゴリーキラーになって一個二個の案件じゃなくてガサっと預けてもらえるような動きをとることが対法人では必要になってくるし、発注側もある程度大枠で継続して繋がっていけるように仕入れ先各位と裏が無い程度に密になっていくことが求められる。
求められるんだけど、商売は自由競争なので、保証するのもおかしな話である。
癒着とみれられば不正と言われる世の中なので、美談と悪事は非常に微妙なラインで第三者評価が分かれる。
横槍は常に入ってくるし、コンペに負ければ一気にひっくり返される。
唯一無二で誰からも求められるような供給元になれれば、殿様商売でも勝ち続けられる世界が見えてくるんだろうけど、そんな人に頼んで買いたいと思うような人もあんまいないから、結局たられば。
今回のお久しぶりのお客様も、見る人から見れば、それはお客様じゃないと言うだろう。そうかもしれない。お客様じゃないと言い放つ人はこういう小さい話を蹴って余るほど今の商いが充実しているということでおめでとうございます。
案外そういうこと言ってる人ほど、実は案件獲得に困ってたりするんだけどね。
SNS侍たちは表面上大変お強いので、虚勢を張るからね。
脱線。
一個一個の話を大事にそこから大きく広がっていく可能性もあるから、サプライチェーンを買い支えられない微力でも、諦めず供給先を広げていくことが僕らにできるささやかな抵抗なのだ。だから昔ちょっと多い買い物してたからって、偉そうな顔して合同展示会とか闊歩しないで謙虚にやっていこうねっていう自戒ポエム。
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