ドラマチックな裏側。

その昔、丸編み生地製造工場にいた頃、お客様である生地問屋様は僕に向かって言った「売れる生地持ってこい」と。

売れる生地という意味には色々含まれると思うが、当時工場営業だった僕は「自社編み機がたくさん回る生地=相対的に売れてる」だったので、数が見込める素材というのが問屋様の意味するところだったかと記憶している。


別注素材が飯のタネだったと言いたいところだが、生産現場にとって、当時の(おそらく今も)ご飯は生地問屋様からのある程度カタマリになった発注である。または資材関係。


しっかりお腹が満たされる状態で、ちょっと味が濃いものを食べたいなってことで別注素材の余力がうまれる。デザートも欲しいよねってことで小口のキワモノ案件もやれる。これはそれなりの規模の工場運営していく上である程度共通認識ではなかろうか。


それこそ昔は(今もあるだろうけど)、生地問屋様が企画の起点であることは珍しく、メーカーからの提案ベースで問屋様の品番が作られていた。

販売先の出口としてメーカーが到達できない顧客を多く持つ問屋様はその営業力が最大の武器で、注文を集約することで一品番当たりの発注数を大きくすることができる。ただし在庫リスクや営業経費を加味し、当然メーカー出し価格よりは高くなるから、ある程度数量を売りたいとなれば値段もこなれた物にならざるをえない。結果的に問屋品番はメーカーで直接別注するより無難でありきたりな生地が昔は多かった。


最近は生地問屋様にも企画力がついて、紡績各社、ニッターおよび機屋各社、染色加工場などが直接取引をすることでメーカーがいなくても素材開発することも増えた。

今はシーズン前に問屋様ショールームに行けば、それはもう、なんでもある。もう作らんでいいなって気持ちになる。それくらいいい感じの生地がたくさんある。値段もまぁ、ロットが張れない別注より、こなれている。


話は逸れるが、去年とある外国のブランド様と商談する機会があった。

僕は素材のアドバイスってことでメーカーさんと同行したんだけど、メーカーの営業さんが提案した国内問屋素材が、同ブランドのメイン素材と似ていたらしく「これはいくらするんだ?」と値段を聞いてきた。営業さんは「1600円くらいです」っていうので、ドル建て「$10-11」とお伝えしたところ、ブランドディレクターは苦笑いをして「僕らはこれを$3-4で作ってるよw」とおっしゃった。

嘲笑ではない、彼は一言詫びを入れると「これが高い理由を消費者が納得できる形で説明してくれないか?」と言う。営業さんは困った顔で「日本製で旧式編み機で・・・って言うてください」と僕に言うので、僕は「ないです」とお伝えした。彼らの市場において日本製で旧式編み機であることが、消費者にとっての価値にはならないということは、会話の流れから想像がつく。念の為、背景的蘊蓄は伝えた上で、一点その明確な生産背景がSDGs的な要素として取り込んでもらえるなら、そういう意味では価値として見れなくはないとも付け加えた。


こだわりの別注素材が良いとか悪いとか、問屋様手張り生地が良いとか悪いとか、そういう話じゃない。

ブランドとして取り扱う素材が文脈上こだわる必要がある別注素材ならば、その特徴を他と比べることなく、自分たちの顧客様に向けて丁寧に説明して良さをわかってもらえばいいだけの話。

問屋様の拾い生地だって、そこにはそれなりのこだわりと価格戦略があり、サプライヤー一同の知恵と技術が詰まっているわけで、彼らなりのお客様へ向けた価値提案である。それは決して別注素材と比べて劣るものではない。と言うか、比べる必要がない。土俵が違うのである。価値を感じるところは万人共通ではないのだから。


最近は繊維業界でもSNS侍たちが承認欲求を満たすために他者を下げて自分を上げるスキームが流行っている様子だけれども、それやって軋轢産んじゃってね?的な。別に誰からも好かれるような発信をしろと言うつもりはない。各々好きにやればいいのだけれど、あえて脅威を外に作るようなやり方ってのはこれ洗脳だから、業界を良い方向に進めていきたいという行動とは矛盾しているのではないかと個人的に思うわけで。


あとさ、業界狭いからさ。あいつ言うわりに回ってねぇなってのもあるからさ。色々ね、数字とかも。

愚直に自分たちが信じる道を楽しく進んでいこうよ。他所がどうとかいいんだよほっとけば。春なんだし。

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