莫大小な人たちと僕。

先日、某タレント起用のEC限定ブランドの生産担当から全く厚さの違う二種類の生地に対して共通で使える付属(襟や裾のリブ)生地はあるか?とお問い合わせいただいた。

一瞬殺気立ってしまったが、冷静に考えれば付属生地がそもそもどういうものかわかっていないだろう人に、同じレベルの知識を強要してしまっていたのは僕の方ではないか。


僕は莫大小業界が長くなるにつれ、いつの間にか心まで莫大小になってしまったのか。

知識がなくて当然という態度で臨んでいればなんの問題もないことではないか。


僕がこの業界に入ったばかりの頃、前職での知識仕入れは社内資料を自分で調べて覚えるか、外部の人に聞くしかなかった。

まだアルバイトだった時に、奈良のおじいちゃんはお茶出しをした僕を商談机に座らせてこう言った「おい、お前見積もりの出し方くらいは教わったんか?」

僕はまだアルバイトの身であり、生地の組織さえ全くわからないと伝えた。いや、記憶が美化されている。生地の組織という言葉さえ知らなかった。

その奈良のおじいちゃんは優しく色々と教えてくれた。

何も知らない僕に対して、編みとは、組織とは、など生地の「いろは」を丁寧に優しく教えてくれた。


他のニッターさんでここまで親切な人はなかなか出会わなかった。僕がたまたまそういう人と巡り合わなかっただけもしれないが、ある程度名の通ったニッターの営業は皆機械明細をみせ、糸と機械の組み合わせはこちらが考えて指示してくるのが当たり前という感じだった。

このような編機の種類や情報を見て、糸を当てがい編み組織の指示をする。

「この糸かかりますか?」とか「この機械でこんな組織できますか?」と聞くと、人によっては「そんなもんも知らんのか、機械明細に機種書いてあるやろ」とぞんざいに扱われるのは珍しくなかった。

自分で過去の資料を分解して、この糸をこの機械でこのくらいの度目(生地密度の調整)で編めばこんな生地ができるはずだ!とイマジネーションを働かせサンプル生地の依頼をすると、面倒くさがりな工場によっては、そのサンプルを生産する前にセットされていた機械の設定のまま依頼した調整をせずにサンプルを作成して違う生地になってしまうこともある。

違うように上がってしまった生地をこちらで分解して、設定が違うと問い詰めると「こんなもんやで」と適当に突っぱねてくる工場もある。

これが莫大小と比喩されてしまう人たちの仕事である。


皆が皆そういう人と言うわけではないが、工場の営業は現場の稼働率が優先順位が高いのでこのような態度になってしまうことが多い。それはそれで理解できる部分はあるが、工場の都合で依頼の物と成果物が違っても良いというルールはない。

出張ベースで営業にくる工場の営業が、商談時は盛り上がって色々お願いできそうな雰囲気なのに、後日電話で仕事の依頼をしようとしたら繁忙期なのか態度がガラリと違って対応してもらえないなど、莫大小な人たちは自己都合を主張してくる。

僕はそんな莫大小な人たちに生産してもらうためにそのレベルの低い意識に迎合し、工場の愚痴をきき、一緒になってお客さんの無知を嘆き、いつの間にか自分も莫大小な小者になってしまっていたのか。


先日来社していた奈良のおじいちゃんに「山ちゃんはよう勉強したで、わしらがやりやすいように指示書出してくれるから段取りがしやすてええわ」と褒めてくれた。

工業に寄ることで生産は苦なくこなすことができるようになったのは事実だ。

でも、奈良のおじいちゃんが僕に最初にしてくれたように、僕もお客さんに対して「知らないもの」という前提で向かい合う初心にたちかえらなければならない。

おじいちゃんは続けた「〇〇某社のとこの子等も全然生地知らへんけどな、その子等かて必死に商売しようと頑張っとるんや。せやから面倒でも知らん子に合わせて教えたらなあかんで。教える人が何言うてるか解らへんかったら、せっかくこの業界に来てくれても面白くなくなって辞めて行ってしまうやろ」と。


僕は業界をいい方向に変えていきたい。そう思って日々仕事してる。

それなのに冒頭のような態度が出かかってしまった、これは驕りだ。戒めよう。

莫大小の人たちにファッションに寄ってもらえるように働きかけ、川下の人には思い通りに生産しやすいように僕の持てる知識を分けていく。

初心忘るるべからずである。

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