ロスとチャージアップとわたし

先日のブログ
↑で経済ロットは糸、編み、染めの最小公倍数ということがご理解いただけたと思う。この条件を満たしていれば生地を作っていく上で不要なロスは出ない。
「カットソーは小回り利いていいよね!」とよく言われるが、それはロットを下げる努力をしやすいというだけで、本当は結構なロットがいるのである。

ただ、僕らのように完全バイオーダーで受注をもらってるやつらが「6反×8色で編み48反がロットです」なんて毎回突っ張ってたらアパレルメーカーさんから注文なんてもらえない。
なのでそこそこ見やすいロットを提示したりするが、そこにはロス率が上がるという余計なコストが隠れている。

結論から言うと、丸編みならどんな生地でも1色だいたい10mくらいから別注することができる。
驚くような単価になってしまうコストとの折り合いと、クオリティや物性が全く安定しないという事への果てしない懐の深さ、そして職人からの猛烈な皮肉に耐え得る図太い精神力があればの話だが。

前回も書いた通り、糸を買うところから始まる場合、糸の最低買取単位がある。
引き続き、一般的な綿糸で生地は30/1天竺の場合という前提で進めていく。

↑これ、しかし編機の糸立て本数は90本必要↓
そこで、糸を分割するという作業が必要になる。
12本を90本にする為には8倍の本数が必要なので、1本を8個にする。
1.875kg÷8本=0.234375kg/本
一本辺りが約230グラムの小さな巻き、糸が96本出来上がる。しかし必要なのは90本なので6本は使えない。(実際には糸は均等な重さで分割されないので編んでいる内にどれかの糸が無くなれば、この6本を使って補填していく)
計算上は約230グラム×90本分の生地が編める。
つまり約230グラム×90本=約20.7kgの生地が作れるということになるのだが、実際にはそこまでの間に工程を経る度に少しずつ糸はロスしていく。
実際には糸1ケースで編める生地はせいぜい20kg弱、10kg(だいたい35mくらい)未満が2反できるかどうかだ。
この時点で既に糸10%強のロスが出ており、そのロス金額は生地値に跳ね返る。
編み工賃もこの2反を編む為に糸を分割する作業から取り掛かり、実働でおよそ2日間は人を拘束することになる。
最低保証金額は各ニッターさんにもよると思うが、通常の編み工賃で2日あれば20反作れる機械のポテンシャルから逆算すると10倍は軽く超えてくる。が、とりあえず生機は10kg×2反作ることができる。

次に染色だが、こちらは一番小さい染め釜でも10kgの釜が工業生産レベルの最小ロットになる。
そして、10kg程度の生機が作れたので、一色約35mの生地を2色分作れるということになる。
染色工賃は一釜で幾らという計算になり、これも染色工場によるが、通常の加工賃より3倍程度が経験上肌感覚からのイメージである。

ここまでが、糸の最低買取単位に合わせた最小生産ロットということになる。
しかしながら工賃はそれぞれ最低保証金額みたいな土台があるのと、糸をロスする分、生地の単価としてはかなり上がる。今ベースにしている素材をざっと計算してみても経済ロットをクリアした物に比べると単価は3倍近くの生地コストになる。

冒頭で書いたように、10mくらいから生地は作ることが出来る。
10mとは染める時に染め釜の中で生機の頭とお尻をつないで輪っかにした状態でグルグル回しながら染めていくのだが、染色液は染め釜の下部に溜められ、その中へ生地を漬け込んでは泳がして染めていくのに必要な長さが最低10mくらいは必要なのだ。

この生地の場合、10m編むのに必要な糸量は約3kgなので、糸を18kgほど無駄にしていいなら編むことは出来る。
先ほど染め釜は10kgが最小ロットと書いたが、染色は浴比といって、生地:水:染料それぞれ対比を合わせていけば、染め釜が10kg用だとしても3kgで染めることはできる。しかしそこには生産力を落として製造するという工業ロスと、浴比を変える事で色が合いにくいという問題が潜んでいる。仕上げする機械も全長が40mくらいの装置なので、10mの生地では収縮や生地目を調整する前に機械の中に入り込んでしまい調性が効かなくなるので、目曲がりや断ち縮みが起こりやすい生地が出来上がる。

いずれも、糸コスト及び編み、染めのそれぞれに工賃の最低保証金額が掛かるので、生地コストは先ほどの1色35m×2色の場合と1色10mの場合でかかるコスト総額は色数が少ないので染色の最低保証金額が一色分減るだけで、全体としてはほぼ変わらないのである。クオリティは雲泥の差が出るが…

くどいようだが、製造していく上で一番ロスなく生地を作るには、前回の内容のように糸、編み、染めそれぞれの最小公倍数である。
ところが展示会受注で生産枚数を合わせて製造していく場合、ほとんどこの製造ロットに当てはまらないのでその都度計算をし直し、要尺×枚数に合わせて生地を製造するのでそれなりの糸ロスや工業ロスはいちいち発生するし、生地コストも一定ではなくなるが、無駄な生地を作るよりはマシなので僕はこのようなアプローチで生地を作っている。

しかし要尺に対してピッタリのメーター数では何かトラブルがあった時にどうにもならないので裁断ロスを数%加味して生地を作るのだが、裁断者は要尺を詰めてくれたりするので実はかなり生地は余っていることが多い。
裁断ロス率は枚数が多くてもあまり変動させることはない。減産NGというアパレルさんは多いし、僕は取引していないが某メディア本体のアパレル部門は契約書に減産したらペナルティの一文が添えてあるようなところもあるので生地はなるべくショートしないように少し多めに作る方が後々の面倒が少ないのである。

どの場面でも製造していく上では何かしらのロスがうまれる。写真のように2シーズンくらい経過したら縫製工場へ出向き、残反の整理をするし、ニッターに残された糸を整理したりする。

どうしたら一番エコなのかはわからないけど、製造していく側のロスを一番無くすにはアパレルメーカーさんが経済ロットをクリアした生地を取り切りで服に仕立て上げてくれるのが理想である。

しかしそうやって作られた服が、売れ残って焼却処分されれば炎上する世の中なので、ガイアの夜明けでやってたような業者さん達も必要になってくる。

僕は衣料品製造について、綺麗事かもしれないけど、理想のカタチを計画している。
実現できたらきっと素晴らしい仕組みになる。ある程度の人たちを敵にしてしまうかもしれないけれど、それはそれで今に始まったことではない。

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