「日本製」は既に付加価値を与えるキーワードではない

先日ツイッタで日本製と中国製の同じ組織の編み地を違いがわかるように動画を撮影してアップした。
これは明らかに日本製の方が伸縮性に優れているというイメージが伝わったと思う。
少し意図的に日本製が優れていると思わせるようになってしまっているが狙いとしてはその方が都合が良いのでそのままにした。実際に生地は日本製の物の方が伸縮性が優れていたし。

実は僕、この中国の工場に生地作り方を教えて欲しいと日本の某メーカーさんから要請を受けた。
リプロダクトの精度は非常に高いときいていたので、現地訪問した時にテストとして日本製の生地を持って行き、糸番手からゲージなどこの生地を作るのに必要な情報を与えてその通り試作してみるように依頼した。
しかし中国の工場担当はこの生地を作るにあたり、自分達の考えるやり方でトライさせて欲しいと言ってきたので(せっかく教えに行ったのになんでそんな勝手なことするの)と思ったけど口には出さずにやりたいようにやらせてみた。
結果は動画の通り、全く伸びのない生地になってしまった。

この結果を受けて先方も僕に対する考え方を変えてくれるようになった。ある意味僕も、中国の工場に試されていたのかもしれない。

この中国の工場は生地と縫製が一貫で製造できて、社是も「夢」がテーマでとても素晴らしかった。
1500人もいる工員たちはとても労働環境が恵まれているようで、全員自家用車で通勤していた。
いわゆる安かろう悪かろうのイメージがつきやすい海外生産だが、この工場は安くない。
それどころか、縫製中だった商品は世界的に有名な欧州メゾンの商品だった。

彼らは自らの工場背景を武器にオリジナルの生地作りをしたいと日本製の生地を研究している。
そして日本のテキスタイルメーカーの技術を賞賛しており「日本の技術はすごい」としきりに言ってくれた。
でも僕は、その工場の設備は日本の最新のものと同レベルかそれ以上だったし、ショールームに展示してある過去のアーカイブの完成度を見ても技術的に劣っているとは全く思わなかった。

足りていないのはちょっとした感覚の部分だった。
糸と機械の組み合わせをがっちりとしてしまうのではなく、度目に遊びを作ることで技術の調整が利くようにする。とか、素材に対してミスマッチと思われる加工を施してみるなど、基本が当たり前にできるという基礎の上にそういう遊びが出来るようになると、テキスタイルメイクは意匠的に進化する。
その辺の工夫がまだ途上中なのは確かだ。
しかしその部分をキチンと理解して前向きにトライしていきたいという姿勢は「日本製だから良いものだし高いのは当たり前」と胡座をかいている工場さんよりも崇高だと思う。
もちろん日本の工場も技術に対して常に探求しているがこのような工場がアジア各地に現れてくると、早かれ遅かれ日本製の生地に追いついてくるだろうし、今日の衣類に対する消費者マインドに「日本製」でなければならないという価値観はほぼ皆無であるから、日本製が優れているというイメージの賞味期限も近い。

何よりもこのサプライチェーンを自社内一貫で行なっているということはコスト的にも脅威だ。時給や物価の差だけが海外生産のコストパフォーマンス要因ではない。
日本の製造業が日本国内でシェア復活を目指すならこのサプライチェーンの再構築も一つのカギだと考えている。

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