丸編み生地製造という職業にたどり着くまで-4-

掲題、少し間が空いてしまったが続きを。

アルバイトから研修期間を終え、丸編み生地作りの工程一式を体験し、生地のことはもう完璧とばかりに勇んで営業に出た。

諸先輩や上司のフォローをやっている時は、お客さんの生地に対する知識が優っていると潜在意識の中で思っていた僕は事あるごとに怯えていたのに、営業に出る頃には怯えなどなくなり自信に満ち溢れていた。

実際、担当のお客さんと商談していても、生地に対する質問のレベルが低くて驚いた。
(僕はこんな人たちに怯えていたのか?)
これが慢心を生んで後にとても痛い目をみる。

まだ21歳だったという若さも手伝って、倍近く歳上のお客さん達はその生意気さも含めて僕の態度の横柄さを許容してくれていたのを、その時はまだ気づいてなかった。

ある日、テレコという編み地で一般的にはリブと呼ばれている生地を納品した時、指定幅が120cmだった筈なのに、110cmしか無いとお客さんから呼び出しを受けた。
↑テレコ
客先に向かう途中、工場に状況確認し、なぜそのような事になったのか問い合わせながら向かった。
テレコは幅に対しての再現性が低く、生地の畝の高さやその時の湿度、または仕上げた時の設定幅によって如何様にもなる。120cm出そうと思うなら、140cmくらいで仕上げておかないと120cmには落ち着かない、そんな生地である。
工場とのやりとりの中で便利な言葉が出てきた。「山本君な、そんなん言うてもな、こんなん所詮莫大小(メリヤス)やで」
莫大小(メリヤス)とは丸編み生地のことで、詳しい意味あいは省くが、ここで言うのは伸び縮み自在のつかみどころがない状態の(いわば工場の言い訳)隠語である。
当時完全に調子に乗っていた僕は、(それもそうだな)と思い、お客さん(当時55歳くらいの生地問屋の社長さん)に向かって、「社長ね、こんなんメリヤスですよー!」と言ってしまった。
その時、僕の人生で一番大きなカミナリが落ちたのは想像するのに難しくない。
「お前の人生より長い間この商売しとるんじゃボケェ!舐めた口きいとんじゃねぇぞコラァ!」と、ガラス製の丸灰皿を振り上げ鬼の形相で胸ぐらを掴まれた。
当然である。
自分が完全に悪いことは自覚できたので、涙目になってチビりかけながらすぐに謝罪し、商品の再仕上げを約束してその場は収まった。

その後やりとりが続き、その社長さんには社会人としての礼儀や振舞い、夜食事の席での作法や、夜遊びも教わった。
まさに業界の父であり良い意味での悪友となった。

この件以降、工場の怠慢な態度に対しては柔らかくも厳しい態度で臨むようになるのだが、人間とは悲しい生き物で、何度かまた同じ過ちを犯してしまうのである。

つづく


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