編み組織の定義。

丸編み生地製造の仕事をしてそれなりの年数が経った。積み重ねるくらいしか取り柄のない僕でも、積み重なったものが少しずつ誰かの役に立っているという現実があるということは、喜ばしく思う日々である。


その積み重ねを頼っていただく例として、「丸編み生地を教えて欲しい」というものがある。これは従事者にとって、お客様と現場の橋渡しに非常に重要な知識であるからして、向学心がある方々は大歓迎であり、業界の製造精度向上に貢献してくれるものと確信しているので、できる限りの知識をお貸しできればと思って臨んでいる。


生地を教えて欲しいとは、まぁそれなりにざっくりとしたお願いではあるものの、概ね編み組織の定義を実物を交えつつお見せしていくのが効果的だ。座学だけで言葉の定義を用いたとて、事実は説明できてもイメージがつかないということは多く、昨日のブログでも書いた通り、言葉とモノの合致ができぬまま何の話かわからんけど学んだ気になることの方が多いと常に感じるものである。


実際のモノを見ながら編み組織の定義を確認していく上で、最近は困ったことが起きている。

昔、というか以前からちらほらあったのだが、ワッフルのように組織を定義付けできない、またはミラノリブやポンチのように定義付けされているものに対して解釈ができず、生地名としてもはや定義を無視して組織名を使ってしまっている商品が氾濫していることである。

昨日久々に、依頼があったので大手生地屋様のショールームをはしごさせていただいた。

いやはや、皆様たくさん新しい物作りをされていて、とても刺激になったし、やっぱ生地見るのってとりあえず楽しい。最近はスワッチに書かれているセールストークもエンタメ性があって生地はとりあえずおいといてそっちが面白いなんてことも、ある。生地も面白いけど。


しかし先述のように、組織定義がしっかりあるにもかかわらず、それが無視された商品名も多く見掛けられた。特に困ったなと思ったのは丸編みシングルではダントツに明確な定義を持つ『天竺』において、その定義が崩れている商品をたくさん見てしまったのだ。

天竺とは、別名平編みで、オールニット、つまり全て編む片面の編み組織である。全て編むのである。

一個でもタック(つまむ)やウェルト(編まない)を経ればそれは天竺ではない。

最悪の例はこちら。ちょっと企画者には申し訳ないけど悪者になってもらう。

はいこれ。ネーミングセンスは某糸屋さんの「ふしぎや〜ん」ばりの高得点を叩き出しそうな面持ちだが、残念なのは天竺ではないところ。

僕ら通称「ブロックインレー」または「ブロックリップル」って呼んだりするんだけど、太番手ニット目縦4段の間に細番手を裏回しウェルト入れて二目くらいでニットすることでボコボコした組織面を見せるおしゃな生地だ。ウェルトを挟んでいる時点で天竺の定義から外れているし、結構昔からこの組織をブロックインレーなどと呼んでいるので今までになかったような凸凹とした特徴的な天竺ではなく、昔からあるブロックインレーでしかない。天竺です!って言い切ってしまってるのが辛い。

あと、この組織のウィークポイントは太番手を細番手でぎゅっと摘んだように凹凸を出していくので、細番手にかなり無理がかかっている。この写真、破裂強度を調べたら速攻でこうなったので、この生地を採用される企画者は肘周りなどお気をつけいただきたい。


一応、繊維ポリスなんで。


このほかにも世界最高のハイゲージ編み機に今まで掛からなかった60/1を試行錯誤の末に調整を繰り返しなんとか天竺を編むことに成功とかいう蘊蓄の書かれた組織もあったが、天竺ではなくニットウェルト、横編みだとフロートって言ったりするのかな。知らんけど。とりあえず天竺じゃねぇから。試行錯誤の末に調整を繰り返したわけじゃなくて、組織が違うからね。騙されちゃだめだよ。


一応、繊維ポリス(´・_・`)なんで。


エンタメ性はいいんだど、もう定義外れたなら組織名入れずにもっと飛躍した生地名をつけたらいいのにと心から思う。どっかのナウな生地屋さんみたいに。やるなら振り切れ!知らんならいい加減なこと言うな!

自分らだって困るだろうに。教えてって言われてこれが天竺です〜なんて胸はって言ってたらやばいじゃん。


どれも天竺を元にした変形組織であることに間違いはない。でも、それ言い出したらカノコだってそうなっちゃうからね。だから天竺くらいは、せめて天竺くらいは天竺のままでいさせてあげて欲しい。組織の定義づけ、序盤の序盤。入り口である天竺が崩れたら、もはや何を基準に生地を教えて欲しい人たちに説明したらいいのか。


蘊蓄の盛り加減も少し気をつけたほうが良い。今までにない、とか、唯一無二とか、まぁ「そう思いたい、僕らは」くらいの温度感で捉える必要がある。この辺はまた別の機会にでも。


とりあえず、丸編み生地組織の定義がしっかりあるものに関しては、それがベースになって派生するので、せめて天竺はそっとしておいて欲しいなと思った繊維ポリスであった。

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