不思議。

ある程度長いことこの業界にいると、それなりに交友の範囲は広がるものである。

知り合った中には経営層も多く、彼らのお話というのは非常にためになることが多い。話すたびに新しい考え方に触れるたび、嬉しくなる。


久々にお会いした縫製工場をお持ちのOEM会社社長様が、商談(というよりは雑談)の中でこんなことをおっしゃっていた。

これは自社スタッフのみならず、外の会社の営業様に対しても同じように感じておられるようで、先行きの不安をあらわにされていた。


我々中間業者は、自社開発の生地や製品でない限りは、基本的にお客様の依頼を形にするというのがいわゆる『商品』であり『サービス』である。つまりここだけ切り取ると、依頼に対して不明点があった場合、仕入れ先様に『投げて』得られた回答をもって案件はすすむことになるので、業務としては回るように見えるのでなんら問題はなさそうだ。


ただし、仕入れ先様から得られた回答をそのままお客様に伝えて、お客様がご理解、ご納得していただいた場合に限る。


ここに落とし穴がある。


繊維業界も長くやってると、それなりに交友の範囲が広がるものである。これはさっき言ったか。

出会う方々の中には、どうしても『わかってる風』の人たちも、残念ながらいらっしゃる。キャリアからくるプライドがそうさせるのか、とにかく、ご説明差し上げた内容をご理解されていなくても「あーはいはい、それね」的な反応をなさる。これは、依頼側に限らず、仕入れ側にも少なからずいる。


ここに落とし穴がある。


言った言わないでトラブルになるから書面にしろとはよく言うものの、証拠としてメールなど文面が残っていたとしても、相手がその内容を理解しているとは限らない。

解釈とは、人によるものだ。


僕の知り合いに、理解度を示すために自分なりに解釈した内容を例えを変えて確認してくる人がいて、まぁ残念ながら先方の解釈した応用例が的外れだったりすることがある。彼の場合はまだ、その場で確認してくれるので意思疎通の齟齬を修正しやすいからだいぶ良い。

しかし『わかってる風』はタチが悪く、ご理解いただけたように見えて全く違う解釈をされている(または聞いてない)ので、ご説明した通りに物事が進んでも本人の意図と違えばクレーム問題に発展してしまう。


これを総括して、やはり中間業者として間に立つものは、お客様のご意向をしっかりと理解し、仕入れ先様にわかる言葉に置き換え依頼する、また問い合わせでも、仕入先様から教えていただいたことをしっかり理解し、自分の解釈に間違いがないか確認した上で、お客様にご説明差し上げるという、当たり前だが疎かにされがちなこの丁寧なやりとりを心がける必要がある。


僕はラッキーなことにバカなので、バカになって聞くことを繰り返すことができた。これはなんという幸運なのだろう。バカ最高。ファミチキはうまい。


このバカ加減は侮れなくて、仕入れ先様も熱心に教えてくださる。わからないからわからないと言える。これを繰り返すと、わからない部分が明確になっていき、わからないところがわからないではなくなっていく。

そうこうしている内に案件はすすむ。するとわからなかったところをわかった上で問い合わせ対応や生産オペレーションの実践で、成果物がわかった通りに出来上がってく。これは非常に面白い。


最初は無知を恥じた。だって聞いたら怒られるんだもん。「そんなことも知らんのか」って。知らんもん。知っとったら聞かんし。でも「聞くはいっときの恥、聞かぬは一生の恥」とはよく言ったもので、聞けば嫌味の一つも言われつつ、教えていただける。みんな優しい。


OJTとは実践内で学ぶことだ。会社は学校ではないので、学びを待っているうちは学べない。もちろん教える側もしっかり教える必要はあるが、これは学ぶ(疑問を持って理解する)姿勢がなければ、教えを受けてもほとんど身にならない。つまり受け身では現金という実弾の飛び交う戦場を生き抜いていけない。


言われたことをやるのが仕事だと思っている内は昇給も望めない。キャリアアップとは価値を出し続けて得られる登り階段だ。足踏みもせず、その場にいるだけで上に行ける世界なんて、重力がある以上は無理だ。(世襲で無能でも重役登用されるケースもあるが


単純に、自分が得たチカラでお客様や仕入れ先様が仕事しやすく喜んでくれるのって、楽しいと思うんだけど僕は。

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