同じものを作る大変さよ。
『繊維は数値化が困難な産業である。』
機械がフルオートメーションで服を作っていると思っている人が増えた最近の世の中で、データ化された全ての履歴を追えば完全に同じものが作れると信じて疑わない人が出てくるのも不思議なことではない。
が、先述の数値化が困難と言い切っているのは天然繊維メーカーではなく、ポリエステル繊維を作っている化学繊維メーカーの言葉だ。化学繊維でさえ数値化が困難なのであれば、天然繊維なんて尚更困難だ。
ウールは難しいなぁ。同じ加工ロットで同じ反の中で、しかも同じ生地幅内の耳寄りと内側でもパイルの玉感が違ってくる。ウールに限らんのだけど、ウールは特にこういう縮絨コントロールがデータで整えてても難しい。原毛ロットとかの関係で、「去年出来た」は「今年出来る」の証拠にならん場合がある。 pic.twitter.com/xCszWGIgY7
— 山本 晴邦 (@HARUKUNI_Y) January 19, 2021
実例をあげればキリがないし、想定してもそれを超えてくるトラブルなんてのはいつだって起こる。そう、本当に、まじで、色々起こる。
経験上一番予測不可能だったのは、大昔、セルロース再生繊維ベースに麻繊維がブレンドしてある混紡糸で、プリントを後でのせるために下処理で塩素晒して麻の茶っぽい色味を白くした時のことだ。プリント捺染(なせん)後に、蒸して色を固着させ、洗いで余分な染料を落とした後の検査で発覚したのだが、麻の鉄分が酸化して欠落し、生地糸が切れ無数の穴が空いていた。プリントをするまでは穴がなかった。でもプリントをしたから穴が空いたのではない。プリントの前処理で麻の処理方法が悪かったからそこで糸が脆化し、また混紡相手もセルロース再生繊維と濡れると強度が下がる繊維だったことも手伝い、プリント後の洗い処理でギリギリ持ち堪えていた糸が切れて穴になってしまった。
当時はまだ麻の繊維に対する知見が浅かったから招いた事故であると同時に、依頼した染色工場もまだまだ麻混糸に対する経験も浅かった時代だ。
誰だって仕事を長く続けていたら、案件によってはその繊維の取り扱いに対するファーストペンギンになりうる。
こうなってくると、繊維に対する知識と言うのは、構成元素や属性までを把握していかなければならず、ちょっと服が好きとかそう言うレベルでは、加工工程を重ねるごとに訪れる化学変化に対して起こりうる可能性のある現象を予測出来ないことになる。
それでもそういう人たちにも生地作りを楽しんで欲しい。だから、小難しいことはあんまり言いたくないけど、とりあえず同じものを同じに作ると言うのは、すげー難しいことだし、まぁぶっちゃけて言うと、完全に100%同じものなんて出来っこないんだ。全く同じように見えて、気づかないレベルでちょっとずつ違ってる。
だから仕入れ先さんがね、少しでも防御線張るために色々とデメリットを並べてきても、根性論的「いやそこをなんとか」と言う押し切り方は、あんまりお勧めではない。デメリットをしっかりと共有して、起こりうるリスクを理解した上で、やるかどうかは依頼者判断だと言う責任も持つようにしたら、仕入れ先さんもすごくいいお客さんだと思ってくれるようになると思うよ。
0コメント