それぞれのゴール。

僕は中間業者だ、これはもう、疑いようがない。工場を持たない僕は、仕事を受けたら誰か工場の方にお願いして加工してもらうしかない、ただの人だ。

依頼主と言えば聞こえは良いが、実際に手を加えてくださる工場の方々との関係性というのは、日々良好に保つ必要がある。なんせ自分では出来ないことなのだから。


僕は佐渡島の実家が縫製工場だったこともあって、工場が強くも弱くもあることを知っている。そして何より、社会人として初めて入った会社も丸編み工場だった。工業とは切っても切れない腐れ縁だ。だからこそ、そこにいたからこそ、今、中間でファッションを市場に送り出している人たちとの商売を工業と繋いでいてとても強く感じることがある。


縫製工場の方々は、やはり最終段階に最も近いところの仕事なので、納期やクオリティに対する感覚がとても近い。近いというのは、中間業の我々、またはアパレルメーカーさんたちの感覚に寄り添ってるってイメージだ。

生地屋さんは、これ言うと怒るかもしれんけど、まぁ僕も生地屋だったからめちゃくちゃ気持ちはわかるし、多数のアカウント管理があるからいちいち一社に対してフルコミットできないのは承知の上であえて言う、工場さんに対して甘い。
どんなに納期管理をしっかりしてますと主張されても、納期の日に「納期遅れます」っていう報告は後をたたない。これは工業側の言い分を丸呑みして伝えてくる人が多いから、この段で「いや工場が…」という弁明をされる場合が多い。
もちろん事故はある。理由によっては飲める話もある。だけど、今それ言われて、口開けて待ってくれてる縫製工場さんになんて言うよ?ってのは、もう一度や二度のことではない。

『納めた時が納期』なんてのは冗談でよく言われるけれど、生地製造工業界隈のソレはあながち冗談でも無い。

本当に、気持ちはわかるんだよ。でも生地って、まぁ糸もそうなんだけど、『商品』かもしれんけど、『材料』でもあるから、出来上がったらゴールじゃないんだよね。
その感覚は締め支払いの風習にもしっかり現れてる。
【出荷日起算】でのサイトで支払い義務が生じる。加工して出したらその日(または当月末)起算で請求が来る。もちろん悪いことじゃない。やっていただいた月締めでお支払いするのは依頼者の義務である。

が、僕らは着荷日起算の締め支払いが普通だ。それがたとえ月末出荷しようが、当月着荷していなければ、先方入荷が認められず、中には〜25着でなければライカンもあり得る先だってある。それはもう月末締めじゃねーだろ。が、しかし取引条件は末締めと書いてある。
こうやって中間業者のキャッシュフローは圧迫されていく。まぁそれはいい。

話は戻る。

生地出荷しても、翌日つかないと困る案件は、製造をつなぐ者としてかなり気を使う。
キャパ取って裁断予定入れてもらって、その前日前までに生地を着けておかないと作業できないから。でもその手前の生地加工工場さんが、他社生機入荷の予定が狂ったから昨今の事情的に稼働しないと言われてしまった場合、僕だったら工場稼働の費用負担するから稼働してほしいと現金もって頭下げに現場に行くだろう。
それくらい、自分が埋めたスペースを空けることは罪深い。

なんとか納期の日に出荷出来たとして、その出荷運送便が聞いたこともないローカル便だった場合、いつ着くかわからんようなもん使ったら意味ねーじゃねーかってなるので運賃は当然こっち持ちで指定業者で依頼するのが生産側の仕事だ。

工場さんとの良好な関係を保つには、物量、単価、納期、これらに十二分な余裕をもたせて、不足の事態に備えることがまずは第一だ。でもこればっかりだと、甘えが出て、工業都合の主張が強くなりすぎることがある。これは25歳くらいの時、痛いほど味わった。

生産はチームだ。それぞれのポジションで加工を終えたら役務は終わりっていう感覚は、時として、「自分たちは言われたことだけはやった」という具合になり、クオリティにも歪みが出てきてしまう。
だからこそ、中間業者がちゃんと旗振りしてまとめていく必要があるんだけど、中間業の立ち位置がどっちに寄っているかというのもまた、バランスの取り方が難しいものでもある。

双方超ドライにビジネスライクにやれば、委託した内容を期日までに納品すること、また、委託する側も依頼日や資材投入をきちんと約束通り守ること、これを守り合うだけで出来そうなのに、そうもいかないこのヒューマンドラマがそれぞれにある製造業界は、もうちょいみんなで先々を考えて歩み寄る必要があると思っている。

糸出荷したら終わり、編んだら終わり、染めたら終わり、それが生地としてまとまって出荷されたら生地屋としては終わり、そんな感じを、なんとか少しでも当事者意識を持ってもらいたいと思い、メーカー名やエンドユーザーのことを知らせながらやってきている。

そうやって少しでもファッションに関わっているという気持ちがうまれたら、なんか報われるところもあると信じて。

それでも全然、業界にいるモチベーションが違うところにある人はいるから、これが響くかどうかはほんと、それぞれのゴールがどこにあるか次第なんだけれども。

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