完成品を意識できると生地に対する考え方も変わる話。
僕はあれだ、その、いわゆるOEMメーカーだ。表向きは。
でも本当は丸編み生地の製造販売がメインの会社で修行して、その時の知識や経験がベースになって今に至る。生地作りから縫製まで一貫でやると、トラブルの芽を早期回収できたりするので、結構メリットはある。金額的な負担はめっちゃデカイけど、生地買うところから始めるよりは、生地に対するフラストレーションは圧倒的に低い。
昔は生地だけ売ってたし、なんなら生機だけ売ってた先もあるから、アフターフォローとかって結構意識低めで、いわゆるメリヤス業界の、生地屋の対応のそれだった。多分生地屋に対して結構対応悪いって不満持っているOEMメーカーやアパレルメーカーの人は多いのではないかと想像する。僕も生地から買う立場になって初めて、僕らが過去にやってた対応の酷さを思い知ったから。
さておき、今日twitterで下記のやりとりをさせてもらった。
縫製関係の方、どなたかご教示いただけないでしょうか。
— REACH-LOW (@Imploudjp) December 9, 2019
「地直し」について、綿一反分のカットソーの縫製を工場に依頼する場合、縫製前に反物の地直しはできない前提で、事前に生地を水通しして算出した収縮率を加味した"大きめの"パターンを作成して発注するのが通常でしょうか。
僕なら、サンプル一枚作って洗い試験をし、その縮み率をパターン反映させた物を投入。よくお客さんで開きの生地を裁断前に一回洗い加工入れろって言う人がいるけど、耳をダッキングして再度開反すると生地幅が10-15cmロスするし、結局テンター引っ張ってセットするから縮率が改善する見込みは低い。 https://t.co/wd77FhhY0y
— 山本 晴邦 (@HARUKUNI_Y) December 9, 2019
ここで言う『地直し』に関して、丸編み生地であれば何種類かの問題があったと想像される。
・縮率が悪い
・切ったら斜行する
・生地目が歪んでいる
などなど、手をつけてみたら何か色々面倒なことが起こったから、生地を問題なく使えるようにして欲しいという要望は後を絶たない。
で、やりとりさせてもらった内容から考えてみると、どうやら気に入った生地の収縮率がよくなくてお困りのご様子。
縮率改善の手立てとして、よくアパレルメーカーさんやOEMメーカーさんから生地屋に言うのが「生地で洗いかけて縮率良くしてよ!」という提案である。これは一見理にかなっているから、言われたままに生地を洗い直したほうが良さそうに思える。
ところが、開反物状態の丸編み生地を再度生地洗いをすると先ほどのリンクツイートのように、生地幅が減ったり、思いの外改善の期待値を得られなかったりする。何故こんなことになるのか?
カットソーのほとんどを占める丸編み生地は本来、編み上がった段階では筒状である。筒状だから丸編みなのだ。
そして、染色工程はそのまま筒状で行われる。これは工程において開反して前処理をしたりするものもあるので、全てにおいて編み上り生地(生機)でそのまま染色という訳ではないけれど、ほとんどは、編み上がった生機(キバタ)を精錬し、染色の工程に移る。つまり、色つけの段階ではまだ筒の状態なのである。
染色後、仕上げと言われたり、整理と言われたり、セットと言われたり、様々な言い方があるけれども、まぁそういう最後に生地として仕上げる工程がある。染めた後は脱水処理した後も当然だが生地は濡れている。ちなみに余談だが、液流染色であろうがウィンス染色であろうが、基本的には染色中の生地は縦方向にものすごく引っ張られている。当然これも収縮率の良し悪しを左右する。
そして仕上げ工程で、生地を乾燥させるのだが、ここに、縮率改善のポイントが一つある。
タンブラー乾燥である。
ただしこれは、繊維種によっては御法度なので、全ての生地に適応できない。短繊維レーヨン系は毛羽がふきやすいし、ポリエステルはシワになっちゃったら取れにくいなど、色々ある。
もちろん、タンブラー乾燥を生地で処方すると、風合いは変わる。ふっくらする。だから縮率は安定しやすくなる。でも、テレコとか横に伸びやすい生地だと、横方向に出過ぎて、やはり縮率を悪くする場合もある。
解決方法に一定のセオリーがないというのは、なかなか厄介である。が、そんなこと、使用する側は知ったこっちゃないから、生地屋は結構困りがちである。
生地屋が困るとどうなるかというのは後記するとして、仕上げの工程に話を戻す。
サクションやタンブルなど、とりあえず脱水後の乾燥を経た生地は、開反という工程に移る。その名の通り、筒状の生地を切り開くのである。
そして、セット機を通して熱をかけ、生地を安定させる。この生地を安定させるためのセット機は、ピンテンターと言って剣山のようなものが両サイドにレール状についており、そこに生地の端をさして、役2-30m程の距離をガスで加熱して生地を送り出していく。
この時に、ピンテンターを横に引っ張りながら生地を張り、さらにセット機の入り口や出口で少し縦方向に引っ張りながら、生地の縮率を考えてセットしていくのだが、そもそもこの段階でそれぞれに『引っ張って』いるので、基本的に生地は、『洗えば縮む』のである。
もちろん染工場だって、生地の縮率が悪いと言われて返品されるのは、染色加工賃しかもらっていないのに割りに合わなくなるので、できるだけ生地を『完成品』として作り上げる努力をしている。が、そもそも企画が物理的に無理な場合もある。例えば、番手に対してゲージや度目が粗すぎる場合、どんなに頑張っても、物性の良い生地が出来上がることは、まぁ、絶対とは言わないけど、無理だ。
だから、テキスタイルだけで完成品としてしまうと、このような企画が物理的に無理でも、生地としてはカワイイみたいなやつが出来上がってしまう。
そしてそんな『カワイイけど無理な生地』を企画した人は、使用した後の「こんなもんモノにならへんやないかい!」というクレームに対して「そういうもん」という押し通しかたをしてくるのである。
これがメリヤススタイルだ!
恐れ入ったか!
(´・_・`)
変なテンションになってきた。
で、なんでじゃそういうヤバイ生地を改めて『生地洗い』することで物性改善できない可能性が高いかというと、さっきの染色工程を一通り頭からやり直すからである。最終の仕上げ工程で結局『引っ張る』から、企画が物理的に無理な生地は何回やっても無理なのだ。
だから、服で洗うに限る。洗って縮んだら、パターン直して、洗う。以上。
こういう流れがわかってたら、生地作る時にそういう部分を解消した企画をすることができる。
生地はあくまで服の要素の一つだから、服になった時どうかという視点を忘れないようにすることも大切なのだと思うよ。生地作るときね。
長くなったけど結局何が言いたかったか忘れたので今日はここまで。
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