単価のしわ寄せ

外国人研修生の件が問題になってるけど、正直今に始まったことではないし、特にこの繊維業界構造を考えたら「じゃあどうする?」っていう問題なので少し単価のことについて書いてみようと思う。


服(まぁ服以外でも)買う時、いいものを安く手に入れたいのは日本人の心理としては当然の流れで、これ自体を否定する気は全くない。そうりゃそうだよね、昔某大手牛丼屋でバイトしてたからわかるんだ。早くて安くて美味いのはめっちゃいいのよ。でも働いてる人の賃金まで上乗せした商品単価がその単価だった時、圧縮されるコストってなんだかわかる?


人件費。


じゃあ「その人件費を削らないように会社が仕組みをなんとかしろ!」って声が上がるでしょ?そうするとコスト転嫁する先は商品単価しかなくなる。もしくは原価下げるためにOGビーフから得体のしれない肉に変えるとか。そんなの公表したら世間から叩かれることこの上ないし、公表しなければしないで問題になる。クオリティを維持するには商品単価を上げるしかなくなる。


これは普通に考えれば至極普通のことなんだけど、単価上げることに拒否反応する人は多い。


じゃあどうすんの?


繊維業界(だけじゃないけど)で工場労働者が得ている収入って工賃からしか出ないから、工賃を削るって事は人々の生活が圧迫されるって事なのはイメージできるかな?


縫製工場だけじゃなくて、糸偏の世界は様々な工場から成り立ってる。

紡績工場、染色工場、編み、織り工場、もしくはそれぞれにぶら下がっている更に細分化された工程だけを担っている工場。

これらをまとめて生地にしている生地メーカー、その生地メーカーから生地問屋へ提案する中間メーカー。


もうわかると思うけど、アパレルがそれぞれ細分化された工場と直貿で出来たら商品原価率に対して中間メーカーのマージンが削れるから上代は下げられる。

でも中間メーカーがいないとまとめらんないから頼る。糸見ても服作れないからね。せめて生地にしてほしいとか、服になってないとわかんないとか言うし。

それで中間メーカーが頑張って企画して服にして提案するでしょ、そうすると今度単価の詰めが入るの、「そんな値段じゃ売れない」って。もっと安くしろって言ってくる。わかるよ、その原価率設定だと、この下代だったらかなりの上代になっちゃうもんね、ここから売り場まではまだ何軒か人が絡むから商品コストはその分も含むわけだ。そうだよね。でも、これ大手SPAが言うから困る。あなたたちはFC店頼りでもなく、直営でその規模なのに原価率20%じゃないと値段合わないって、そもそも売れない前提でその構成比なら商品企画とか仕組みとか考え直さないとヤバい。

ちなみに僕の知ってるメーカーさんは卸とFCでやってるけど原価率は案外高い。もちろん買取とか委託とかそれぞれ小売との取引形態によるから一概に言えないけど、ちゃんと収益化できてる。だからこのノリで大手SPA行くとまじビビる。その値切り根性に。


その大手SPAにぶら下がってる業者はだいたいが商社とか。で、その商社が工場直でやるかと思いきや、ここから中間メーカーに投げられたりする。(商社にぶら下がってる中間メーカーもいるし、商社の営業が怠惰な場合は中間メーカーに直接アパレルと商談させて決済だけ商社と言うケースもある。これは与信管理やファイナンス問題もあるので一概に悪とは言えない。)

で、この中間メーカーは縫製工場に直接依頼することもあれば、ここから縫製振り屋に投げたりする。縫製業は最長でもこのくらいルートが伸びる時がある。これで縫製工賃叩かれたら当然しわ寄せは工場に行く。最初のメーカーが1,000円で受けたら、振り屋に800円とかで投げる。振り屋は650円くらいでまとめられるように裁断、縫製、仕上げ屋にそれぞれ単価交渉する。その最終下職の工場で作業してるのが外国人研修生だったりする。


生地も同じ流れで、大手SPAに直接生地売りする場合でも、中間メーカーから発注もらう場合でも、生地単価だって値切られる。生地問屋の営業は注文ほしいから「頑張ります!」って言って元気よく持ち帰ってくるでしょ。そんで生地メーカーや工場にそれぞれ単価交渉するの。さっきの縫製と同じで。

特に手張りのプロパー品番とかは、その営業裁量を与えられる程度の粗利率確保のために、物量に物言わせてかなりの編み工賃や染め工賃の圧縮が入ってる。

編み工場だって、工場持ってるところが自社で編むとは限らない。大手問屋にぶら下がってる生地メーカー(特に尾州)は更に抱えの家産ニッターへ工賃をぶっ叩く。最後に受ける家産ニッターは機械遊ばせるよりは稼働してた方がいいので信じられない単価で受託する。その信じられない単価で受けて実際に作業してるのが外国人研修生だったりする。


縫製工場も編み工場も、繊維製造工業はこの経緯で仕事を受けて、最終的に作業する人に払う賃金はこの受託加工賃の中から出すしかない。工賃て設備費とかも含んだ上での人件費だから、値切ったら値切っただけ下請けの生活が圧迫されるのを理解してほしい。


外国人研修生に対しての待遇がひどいとか、確かにそういう工場もあるけど、そもそも購買単価が消費者のイメージと乖離してるから値段を下げないと売れないという体質自体が、彼ら工場などの収益を担保できる構造じゃないよねって話。

だから「外国人研修生が辛い」ってことを「雇ってる工場が単純に悪い」って言っちゃう人は、こういう背景も意識してからにした方がいいよってこと。

そう考えると、僕らみたいな中間業者がいない方が、工賃も少しは引き上げられるし、商品上代も歩み寄れるし、いいことだらけだよね。今はまだ無理だろうけど。

少しでもそのような良い環境にできるように、双方に向けて発信してることが、役に立てばいいなと願って日々動いてる今日この頃。

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