明るい未来の話をしようか。

僕がこの業界に入ってから、本当のじいちゃんかのように慕い、本当の孫のように可愛がってくれた方が廃業を決められた。

昨年までは遠くの出来事のように聞こえていた繊維やめる系の話が、今年はこんなに近くまで来た。実際、身の回りで直接関係のある人が繊維を離れる話は今年非常に多い。


廃業に関しては実は年明けくらいから話を聞いていた。ただその時はあと5年くらいかなって言ってたから、僕は僕でなくならないように引き継ぎ先を探し内々に話をしたりもしていた。でも良くも悪くも決めた人は色々スピード感が出てしまうもので、5年後どころか1年でケリをつけてしまわれた。結果的にはM&Aを成立させる前に廃業後は更地にしてしまう決意をされたので、今は設備整理と顧客整理に関して少しだけお手伝いさせてもらっている。


廃業理由としては各方面へ迷惑をかけないくらい内部留保があるうちにたたむということだが、決定打になったのは決算の内容が昨年度対比で赤字額が若干増えたから、らしい。

事業引受先候補だった方も「同社がどうこうと言うより、サプライチェーンの一部である編加工場を単体で見た時に、従来の業界慣習では明るい未来が見えない」と仰っていた。それは例えば編み工場に限らず、撚糸でも染色整理でも、原料供給から納品先までの間を繋ぐ部分的な加工業は、単体事業で新規開拓が難しく、同時に原料供給元のスケジュールによってキャパコントロールが乱され、かつ顧客の業績によって売上を左右されるしかない状況であることから、赤字が継続している以上は辞めざるを得ないのが最善の経営判断だったということになる。

ものすごいドライに言えば。


企業活動は需要と供給のバランスで保たれるので、かつて大量生産を必要とした国内繊維製造加工業は設備の拡大に投資してきた。時を経て国内生産が少量かつ短納期の時代になり、巨大化した設備を維持することが難しくなった工場は生き残るために設備の縮小化することで『やれている』状況を作り出すことができた。

ただ時折現れるビッグオーダーは小規模設備では納期がかかりすぎる上に、設備単位あたりの生産性は向上しないので工賃は安くできず、依頼主としては大口案件のメリットがないため案件自体が流れやすい。工場としては手前でかかる手間は大口でも小口でも一緒なので大口の方が良い。この両者を天秤に掛ければ大口案件のために設備を縮小化せずにしておいた方が良いのだが、大口案件が国内で回ることは今はあまりないので結果的には設備維持できないというジレンマがある。

これは技術云々ではない。物理的な問題である。


そりゃ納期も待ってくれて、高い単価も飲んでくれたらいいんだけど、そういうわけにもいかないのは代替えとして安価な選択肢があるから、依頼主の視点からするとわざわざ遅くて高い方を選ぶというのは、一般的なビジネスの考え方としてはおそらく落第点をつけられてしまう。そこに未来を買うという考え方が伴えば、納期も待って単価も飲む選択が間違いじゃなかった時がくることもあるだろう。

そんな道徳的でウェットな部分を選んでいけるほど、今世間に余裕がないのはわかっている。


かたやこの一報により、有志の方々から設備引受希望の連絡をいただいているので、同社の顧客案件だけでは辞める判断しかなかったところが、引き継ぎ先の顧客案件も重なって、品番(及びものづくりの魂)が生き残る未来は見えつつある。

会社は無くなってしまうかもしれないけど、じいちゃんたちが作ってくれた魂は引き継がれる可能性が見えてきている。これは寂しい中でも希望の光だ。


あー、僕もいっぱいもらったな。

前職時代は誰も書けない組織図から、分率計算方法、直接僕がやるわけじゃないけど機械のメンテ方法から、難易度の高い糸の扱い方まで。おかげで別の現場でもトラブルシュートに役立ったし、それによってたくさんのお客様や工場現場の方に喜んでいただけた。

これは僕にとって未来永劫本物の宝物だ。誰にも奪えない。目には見えないし数えることもできないけど。


知り合いがじいちゃんの工場に二ヶ月現場に入るって聞いた時は心の底から羨ましかったし、そいつが現場から営業に戻ってきた時の知識の薄さにマジ腹が立った。お前何しに行ったんだよって怒ったけど、じいちゃんはニコニコしながら「やまちゃんな、そんなもんやで。普通やて」って言ってたっけ。普通ってなんだよ。もっと一緒に怒ってよ。

独立する時にお祝いでデスク買ってやるって聞かなかったけど断っちゃったのは、見栄っ張りだから自分で選んだやつにしたかったんだよね。あんときはごめんね。「なんでやねん・・・」って寂しそうにしてたけど、僕の(この業界での)じいちゃんだからこそわがまま言わせてもらったんだ。気を遣ったわけじゃないんだよ。


おもひでがいっぱい。


本当にありがとう、そしてお疲れ様でした。


目には見えないもらったものを生かし、設備引受先へのサンプリングのお手伝い、僕にできることを前向いてやっていくからね。

明るい未来のために。

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