丸編み生地製造の勉強-繊維の話編(絹の回)-

生地を作っていく上で、繊維の特徴を知っているのと知らないのでは、ものすごく違いが出る。

ビールとホッピーくらい違う。


今回はシルクについて触れてみたいと思う。

僕にとってシルクは色々な思い出が詰まってて、なんかもう、マブダチと呼ばせてくれ。

いや専門に扱っている業者の方がいらっしゃるのでマブダチは言いすぎた。顔見知りくらいで許してもらおう。

一番新しい記憶では、シルクだけを扱って某テレビで物を売る番組に出演したことがある。高すぎてあまり売れなかった。それはもうほろ苦い思い出だ。

古い記憶ではウールとシルクを混ぜた高級糸をとあるお客さん向けに口発注に乗っかって一気に糸で1,600万円分の仕入れを起こしたことだ。前職の社長からものすごい雷を落とされた。これもほろ苦い思い出だ。

そもそも身近にシルク高比率の素材を扱う仲間があまりいなかった(カットソーはそもそも高単価の商材が売れにくい)せいか、たたき台となるサンプルも特に多かった訳ではなかったので、チャレンジしてみたら知らなかったことにぶつかって痛い目にあって知識になっていくというのは、仕方のなかったことかもしれないが。


しかし、シルクとの思い出はほろ苦さしかねぇ。

乗り越えた先にそのほろ苦さが旨味になる、ビールみてぇだな。


なので、僕にシルク高比率の生地を依頼してくる場合は、まず共にほろ苦さ(お金の面も含めて)を乗り越えてくれる腹を決めてから投げて欲しい。そして一緒に乗り越えて美味いビールを飲もう。


シルク、それは天然繊維の神秘。

一本の繊維長が1500m近くもある動物性繊維はシルクの他にない。

飼育されている家蚕(カサン)と、野生生息の野蚕(ヤサン)があり、市場流通のほとんどが家蚕だ。

中国がシルクロードと呼ばれているくらいなので産地としては大きい、ついでブラジル。日本の絹産業は僕らのような一般衣料を扱うタイミングでお目にかかれることは滅多にない。


蚕は吐き出した一本の繊維を器用に丸めて蛹になるための繭をつくる。その繭をお湯でほぐし、丁寧に抽出し数本まとめたのが生糸だ。細かい製造方法はググってくれ、僕なんかより丁寧に解説している記事がたくさんある。

簡単に特性についてまとめてみたい。


シルクは・・・

・光沢がある。

生糸は繊維長が本来約1,500mもの長さから長繊維として扱われるので、糸自体につなぎ目がないから糸表面に凹凸ができないから光をよく反射するので光沢がある。カットしてスパン(短繊維利用)することもあるが、シルク100%ものは基本的に6cmくらいの長さでカットしたものを利用するので練条工程{ スライバー(素糸と言ってワタをブレード状にしたものから糸にする前段階で引き伸ばしたもの)を引き合わせて伸ばしていく工程}が綿などに比べて1.5倍~2倍にすることで繊維の均一性が増し綺麗な糸になるのと同時に、繊維断面が三角形なので光の反射率が良い。説明がややこしくて長いね。さーせん。

生糸かスパンかを見分ける方法は、シルク専門の糸屋さんなら、糸番手表記がデニールで書かれているのが生糸、毛番手表記なのがスパン糸だ。ニット向けに糸を出している糸屋さんとかはこの辺を独自の表記してる場合があるのでこの限りではない。


・肌触りが良い。

デリケートな虫の蛹なので当然といえば当然だが、繊維繊度が細いのに強度がある(同クラスの繊度で他繊維と比べた場合)のでしなやかな風合いが出る。また、生き物がその中で生きていたということは、当然その生き物は排泄をするので、尿素などの保湿成分が繊維に浸透しt

いや、この話はやめておこう。

でも、その性質を利用して化粧品として形をかえて利用されることがある。


・デメリットも多い。

タンパク質で構成されているので、日光による黄変や虫食いがある。シワになりやすかったり、水に濡れると強度が下がるとか、デリケートな繊維であるので取り扱いが難しいというのも着用者にとってはデメリットだろう。


しかしそのデメリットを凌駕するほど、高級原料としての人気は高い。

カシミアのように、入ってたら高くても売れるという印象があるのもシルクの特徴だ。もちろん、原料は高額だ。だから最終商品は高くなるのだが。

高い理由を探るのはアレだが、生成工程が非常に手間がかかるのはあの繭から紡ぎ出すのだから想像しやすいと思う。めっちゃ手間がかかってますよ。この繊維は。


繊維それぞれに色々とあるのでシルクに限った話ではないが、本当に奥が深い。

全網羅的に知識を得ることは望ましいが、はっきり言って難易度が高い。

シルクとかウールとか麻とかそれぞれに専門的にやってる糸屋さんがあるので、ブランドとしてどういう原料が得意な領域か、というのは設定してみてもいいかもしれない。

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