スライディング消耗戦の果てに。

スライディング営業。それは究極の消耗戦。業者同士の殺し合い。

一つの案件に対して勝手に業者が安値方向へハンマープライス。顧客から他社の見積もりを聞き出すなどの手口で値段の潜り合い。アパレル側が相見積もりを取る作業を業者間で勝手にやってくれる。そして最安値の業者へ依頼がくる。血で血を洗う営業方法だ。

しかし残念ながら、製造の世界では商いを奪うもっとも有効な手段として横行していた。いや、今もまだしている。


かくいう僕も、前職でこの方法を駆使し、中間生地問屋の商圏をことごとく荒らしたことがある。そう僕自身、この方法で業者同士を殺し合った経験をしている。

この場合はスライディングというよりは中抜きになるのだが、顧客から使用する生地品番を聞き出し、単価を卸値で再提示すると中抜きマージン分がごっそり値引きできるので、あっという間に成約に繋がったので味をしめた。当時の問屋はストックデリバリー以外に特にこれといった強みを持っていなかったので、数量がまとまる先なら別注でこの商圏をかっさらうことは難しいことではなかった。

しかしこの消耗戦を戦い抜くには、顧客の「慣れ」に対して常に対応をしていかなければならない。常に安さを求める彼らは海外生産に移行しだした背景をちらつかせながら更なる値引きを無言の圧力でかけてくる。

そして中間問屋もバカではない。中抜きして市場をさらった犯人を特定した後にやることは一つ、僕の下を潜ることだ。

製造背景を特定することはそんなに難しいことじゃない。工場と工場をそれぞれ直接ハンドリングすることで、製造原価は僕同等で作れる。それどころか、大手問屋であればそのネームバリューを遺憾無く発揮し、今後の取引も含めて保証する引き換えにその原価を圧縮することも容易にできる。

こうして僕がスライディングで作り上げた売り上げはあっという間に奪還された。


ここで何が起こったか?

工場の収支が圧迫され出した。当然といえば当然だ。

僕が潜ったのは中間問屋の中抜き分だ。元々は中間問屋向けに出していた単価で僕も工場も収支は成立していた。ところがそれを中間問屋が潜るとなると、問屋の収支を確保するために工場へのコスト圧迫が始まる。物量や年間の取り組み保証などを差し引いても、本来その中間問屋向けに商売を仕掛けていた同品番の単価から減額されるのだから、トータルではマイナスである。他の依頼がくる保証もない。

僕はとんでもない試合を仕掛けてしまっていた。「三方よし」を目指していたはずが、少し歪んで「中間業者は悪」だとして巨大資本の中間問屋に対して喧嘩売って僕が負けたのみではなく、仕入先まで消耗戦に巻き込んでしまっていたのだ。

少しでも償いになればと、今でも提示単価を値切るようなことは極力していない。

場合によっては多少積んで払うこともある。


しかし、今もこの方法で商圏の取り合いは続いている。特にOEMメーカー。

東京下町のメリヤス縫製工場界隈はなんとか状況打破したいと、少しずつ、でも確実に良い方向へ動き出している人たちがたくさんいる。計画的に甘い部分も否めないが、それでも中には完全に立ち直った工場もある。こういう人たちの芽を積むような不毛な消耗戦はもうやめにしよう。

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