断言の脅威。
こと繊維製品に関しては、それなりに長い時間触れ合ってきた。
気がつけば仕事にもなっているので、まがいなりにも対価を頂戴している以上は、結果に対して責任が伴うものである。
大昔は若気の至りもあり、繊維の性能や組織の構造上考え得る使用者メリットを断言的に売り文句にしていた頃もあったとかなかったとか。
公的機関による試験結果で証明されているものがあればそれは全く問題のないことである一方で、こと機能効果に関しては体感が伴うかどうかによってエンドユーザーの受け取り方は大きく変わってくるし、誇大表現と感じられてしまえば、ブランド及び、素材提供側の信頼は一瞬にして墜落する恐れもある。と、いうことを自身の体験を通して身にしみているので、勉強に勉強を重ね様々な可能性があるということがわかり、行き着いたところは『断言』できなくなった今の自分が出来上がっている。
繊維そのものが持つスペックは自然界で生き抜いているそれぞれの特性上、確かに機能的に効果の期待ができるものは多い。事実としてデータは取れるものが多い。
ただし、それはあくまで『その繊維にはそういう特性がある』という平均的な傾向であって、その繊維を生地に取り入れた上で機能が効果を発揮するかどうかは、その生地を試験してデータを取らなければ証明できない。
まして単一繊維ではなく、混合の場合は、それぞれの良いところが全て機能として素材に備わるかどうかなんて、まじでわからない。編織組成によっても大きく結果が違う。だから試験取ってみたら一個も機能表記できる特徴がなかったなんてこともザラにある。
公的機関での試験結果などの裏取りがない状態で、期待値を断言しきっているものを見かけるたびに、繊維ポリス的にはヒヤヒヤするのだが、出してしまったものを引っ込めることはできなくなった世の中においては、そこから先の様々なことはもう自己責任になってしまったので、南無南無という気持ちしかない。
コロナ前だっただろうか、取引のない染色加工場様から新規取引のために営業にきてくれて、ご提案いただいた中に天然由来の処方で特殊加工したサンプルを見せていただいた。
その主成分から想像できる効果効能がリーフレットに記載されていて、実際にご自身のご家族では健康に関して効果があったとの報告も受けたのだが、実際にその加工された生地で効果効能を試験したエビデンスはないものだった。
実体験で効果効能があれば、断言できるような気もするが、あくまでもその素材に関してはそうだったという粋を出ないし、もしかしたらその健康効果も、その加工によってもたらされたものかどうかは、他の生活場面を知らないので断定は難しいようにも思われる。「そういう期待値があるものを使用しているから」といった具合のプラセボ的ノリもあるかもしれないし。
コロナ禍でさえ、抗菌系の素材は爆発的な増え方をしたが、あくまでもその生地に抗菌機能があるだけで、健康被害を食い止める証左はどこにもないのが実態だ。
ただ不思議なもので、人間は、都合の良い情報に関して妙にレバレッジが効く。たとえ曖昧な表現をしたとしても「あいつがこう言った」レッテルを伴って勝手に確度が高められていく。そしてその分野に明るくない人が、その情報を鵜呑みにしてさらに『そういうもの』として世に拡がっていく。
しかしソースを辿ると、あくまで推測だったり仮説だったりするレベルで、効果効能を約束するものではなかったりする。
このギャップに末端の情報の受け手は怒りをおぼえ、情報源を攻撃し悪者にしてしまう。こわいこわい。まず落ち着いて文字ちゃんと読もうね。
なので、実は繊維製品の機能的効果効能は多くの場合は感覚商材になっていて、エビデンスがあっても断定断言していない場合が多い。断定表現の場合は体感個人差に関する注釈があるものがほとんどだろう。
もしこれが、裏取りのない情報で公に効果効能を断言していた場合、ある程度影響力が効く範囲でその発信者を信じている人がいたら、無思考で信じてしまいその情報をどんどんと拡げていってしまう可能性がある。
信じている人から聞いた話を信じて、効果効能を期待して製品購入した後、期待値に答えられない商品だったらどうだろうか。
あとはわかるな。
僕自身がいつだって間違いない情報を持っているわけではない。それは僕に限らず、誰だってそうだろう。ましてこの業界で結構深掘りしたなって実感があったとしても、日々状況は更新されている。事実ベースで言い切れることなんて、案外多くないもんだ。
まぁ発信者がそれをわかっていて、こういう反応さえも想定してあえて燃料にしていこうという考え方なら、それも一つのやり方だろうし、僕がどうこう言うものでもない。それこそ僕の、感想ですから。あとはご自由に。
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