短サイクル納品の限界。

緊急事態が長い。正直言ってこんなに長引くとは思ってなかった。

この厄介なウィルスの流行を耳にしたのは2020年始から中国〜ドイツに行ってた時だったので実感も特になかったのだが、現地深夜にもかかわらず繊維加工業者様の面々から「マスク作ったら売れるから材料手配したい!」という問い合わせがひっきりなしだったのを思い出す。


その流れに乗ってある程度のキャッシュを手にした方々もいらっしゃるようだが、なんせほぼ一ヶ月海外にいたので実感が持てなかったってのはさっき書いたけど、加熱ぎみの人たちを割と冷静にみていた記憶がある。

帰国すると、なるほど加熱する意味がわかるほどに店頭にはマスクがなかった。幸い、いつだったか親戚から山ほどもらったサージカルマスクが自宅にあったので高値掴みすることはなかったが、春先には緊急事態宣言一回目を迎え、街の景色は一変してしまった。


直近の先行きを不安視して、昨今国内生産でQR(クイックレスポンス)供給も極まってきていたところへ、さらに引きつけ厳しく、もっというと数量も激減し今年に入ってからは工場の廃業もかなり目立つようになってきた。


作れるところが限られると、普段からの付き合い方でパワーバランスというのが明確になってくる。程の良いつまみ食い感覚の業者様に関しては、おそらく困難極まる供給体制に追い込まれてきたのではないだろうか。


新規参入の方々には申し訳ないが、国内製造業との付き合い方は一朝一夕には行かない。国内に限らんかもしれんけど。工業側がそういった新興勢力を排除しようと考えているとかそういう話ではない。むしろ最近の方々は意欲的に新しい方々を受け入れようと努力してみえる。

ただシンプルに、長く付き合ってきた人たちの方が信用があるし、数量的規模感の把握もできている。取引の長い依頼者側は工程時間をしっかりと見繕ってキャパというものを事前確保する流れがある。そこへ一見さんが割って入って急ぎで間に合わせて欲しいという要望は、気持ちは理解できるが物理的に難しい局面であるということを意識しておいた方が良い。


たしかに工業は、キャパが空けば都合よく仕事を欲しがってくる性質がある。そしてキャパオーバーしていたら問い合わせさえも冷たくあしらう傾向もある。電話に出ないなんてザラだ。そういう側面は否めない。

裏を返すと、待ってでも仕事を入れておいてくれるところには割と誠実に対応する。無理矢理こじ開けようとしてくるスポット様に対しては残念だが冷たい印象の対応にならざるを得ない。なぜならそこまで義理を通すほど『毎度お世話になって』いないからだ。これから大変お世話になる可能性は十分にあることはわかっていてもそれは可能性に過ぎず、まず筋を通すべきは普段から大変お世話になっている常連様であるのは言わずもがなだろう。


丸編み界でわかりやすい事例として吊編み機がある。

台数の少なさに加え、こいつは本当に水揚げが歯がゆい機械だ。ストーリー性を持つテキスタイルが売れるという流れの一環で、吊編みをやりたいという要望が増えた時期があった。普段から商品をしっかり供給するために、その水揚げの悪さを考慮して段取りを組んで年間スケジュールを立てているメーカー様を押しのけて「キャパをくれ」と工場に交渉したところで無理な話なのに、そこへきて単価も競争したいというのは、その瞬間スポット商売のために今までの顧客様との取り組みや信頼を失ってでもやれと言っているのと同義になる。

机上計算ではできるはず的な論で押し通そうとしてくるが、フィジカルとメンタルが密接に関わる工業の現場でそういった論破はむしろ逆効果である。

僕は話の脱線技術に関しては、ものすごく自信がある。


何にせよ、国内製造業の物理的キャパは減ってきた。流行りがテクニック的に絞られると当然その設備は渋滞する。そうなればいよいよ普段から密接に取引のある業者様が強くなる。

最近は本当に閑散期がなくなってきた感さえある。


新規である程度納期コントロールしたいと思うのであれば、いきなり直接工場へ依頼するよりも、普段から各仕入先様と安定感のある取引をしている中間業者と、無理のない範囲での落とし所をつけながら計画していくのが、当たり前だけど、良いように思われてきた今日この頃。

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