返ってこないもの。

人徳が伴わない世界では、『お願い』もただの『わがまま』と捉えられても仕方のないことなのだろう。

大昔、人を見る目などなかった新人時代は、人徳を見極める術など持ち合わせていなかった。これから書くことは、人を責めるではなく、自分の青さを恥じるとともに、世間に対して不義理をかますなよ、という自戒の念をこめたポエムである。最近はポエマーになりつつある。


社会人になって一年目で、先輩が短期カナダ留学をするというので、不在の間に数件のお客様をお預かりした。

ある日、何かにつけてお調子者のお客様(かなりベテラン選手)が、こちとらまったく謂れのないクレームを飲んで欲しいと相談してきた。まぁ普通に「断る」という話であったが、彼曰く「いやね、山本くん、この業界『貸し』は作っといた方がいい。だから今回はオレの『借り』ね!頼むよ!」というので、腐っても長年この業界にお勤めの御仁である。ある種の含蓄があるのかと信じ、『貸し』でクレームを飲んだ。そして社内処理は、有耶無耶にしてかき消した。

その頃の僕は青かった。そうさ、雲ひとつない夏の空のように、真っ青だった。


後日、別の話で仕入先様に伺って色々と雑談をしていて、件の話をした。

山本「某〇〇社の〇〇様から、カクカクシカジカ、で『貸し』を作りまして笑」

仕入先様「・・・・〇〇社の〇〇か。あいつはクズだ」

山本「へ?クズ?」

仕入先様「〇〇社からの仕事は、山本くんからなら受けるけど、そいつからの仕事だけは絶対に何があっても受けない」


きっと、何かあったのだろう。

その仕入先様は、某〇〇社の仕事だと伝えると、必ず担当の名前を聞いてきては、その僕が『貸し』を作った〇〇氏の分だったら絶対に断ってきた。どんなイージーなオファーでも、必ず答えは「NO」だった。


後日色々と経緯を聞くと、同じようなノリで『貸し』を作ったが、一向に返ってこなかったという。内容は決して些細なことではなかったが、取引相手の看板もあって飲んだという。忘れかけた頃に、また同氏から「クレームを飲んで欲しい」と頼まれたそうな。しかし過去の『貸し』を思い出し、強く押し返し、それ以降、その会社との取引も直接はしなくなったそうだ。


この業界に長くいると、中にはそういった残念な人もいるのは事実だ。だから、かの仕入先様はとても英断だったと思う。「取引がなくなっても不義理をする奴とは商売せん!」というスタイル。そうだよね、そういう人と商売しても持続不可能だもんね。だからそんな人等とは関わらんで、きちんと自分で食い扶持を探していくのが良いと、僕も思う。


案の定、僕の『貸し』も返ってくることなく、その人は同社を退職した。消息も不明だが「なんか結構辛い人生っぽい」という話は人伝に聞いた。それはその不遇な人生が引き起こした不義理なのか、または不義理が招いた必然の境遇なのか、真実は当人でさえわからんだろうけれども。そういう噂の的になるくらい、悪名高かったということだけはよくわかった。


『貸し』も『借り』も、対等にやれる商売仲であれば通じるものなのだろうけど、そういうのがまだ無い世界では、『お願い』は「将来を見据えた取り組み」という言葉があったとしても、受け手からすると、まだ何もない一方通行の『わがまま』になるので、まずはちゃんとイーブンの商売を入り口にするのが良いと思う。

「他所さんは飲んでくれましたよ」ってのは脅迫でね、そういうこと言う人は、そことやればいいの。そういう奴らには「ウチにお願いしたいんでしょ?じゃ条件はこれっす。」で、いいと思う。偉ぶるのではなくてね、上から来るなら、上から被せる。相手の反応は自分の態度の合わせ鏡って、昔誰かが言ってた気がした。

最初に信頼を失ったら、もともとないのだから、絶対に取り返せないもんだよ。そんな人は『借り』を作ることなんてできない。だって返せないんだもん。

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