歩引。

先日見かけたニュースで、歩引きやめろやって公取から指導が入ったってやつ。あれ僕も大昔その仕組みについて疑問を持ったので、当時聞いた話を思い返してその歩引きの意味を考えてみたいと思う。


僕がこの業界に入って、お客様を初めて持たせていただいたとき、お取引の内容にしっかりと『歩引き』という名目があった。お支払い明細をいただくとき、請求金額からその割合値引かれて振り込みされるといった性質のものだというのは、取引を通して実体験として初めて知ることになるのだが、最初はなんのことかわからなかった。


その値引いて振り込みますよっていう支払い明細を確認した時、ぶっちゃけ腹たった。なんで値引きすんのよって。

ただ、先輩からそのお取引先様を引き継ぐ時に、お見積もりを提出する際、売値に対して「ここは歩引きがあるから、◯%上のせして・・・」など、計算を叩き込まれていたので、実際問題として支払い時に値引きされたからと言って、見積もり時の粗利金額が割れるということはなかったのだが、そういうのがちゃんと理解できるようになったのはもう少し後の話。


腹が立ったけれど、理由もあるのだから聞いてみようと、その取引を容認した会社の長に聞いてみた。「なんで値引きする仕組みなの?」って。


長「昔は信用取引と言って手形の振り出しが普通でウンヌンカンヌン・・・で、資金繰りのために仕入れ資金を賄うために銀行さんから金借りるやろ、そん時に借りる金利分相当を売り上げ回収を早めるために現金振り込みしてやるから、その分値引きしますよと、こういうのがウンヌンカンヌン・・・」

話は脱線に脱線を重ね、おそらく2時間くらい話を聞いた。僕の話が脱線するのはこういった企業文化の元に繊維戦士として育ったからかもしれない。


要約すると、大昔は約束手形での支払いが多かったそうな。
約束手形ってのは月末で締めて代金を請求すると、その翌月末にその金額が書かれた紙切れが送られてきて「これ持っといたら90日後(3ヶ月後)や120日後(4ヶ月後)に銀行さんから該当金額振り込まれますよってに、その証拠やさかいなくさんといてや」という内容のものらしい。

製造工業は人件費などが製造原価になるので、お給料は仕入れ代金と同じ、つまり当月の手当は当月に職人にお支払いするのが当たり前なので、そんなゆっくりと現金化されるのを待ってはいられない。なので約束手形を割る(銀行に持っていって、その手形を担保に金利分差し引いて融資を受け現金化する)と、額面より幾分少なくなった現金が手に入る。

そして当座を凌ぐというのが古い『しきたり』だったらしい。


その『しきたり』を、直接手早く現金でお支払いするので「金利分は請求金額から引きますね」っていうのが、お取引を始める前の双方合議としてあれば、『歩引き』が許されたのだそう。

で、その歩引きってのはまぁそのまんま利益を圧迫するもんですから、最初のお見積もりで売価に歩引き率分を上乗せしてお伝えしましょうねっていう社内々の暗黙の了があり、お客様の目の前で電卓を叩く際には、素早く、いや光の速さで、その歩引き分0.9◯などで最後に割る計算を見られないようにしたものである。


僕はその筋の専門家ではないので、詳しい成り立ちや法律上の問題など、歩引きに潜む問題はよくわからんけど、なんせ引かれるってわかってたから、その分乗せてたってのがあったので、特段問題視などしたことがなかったな。


逆に製造にかかる仕掛かり期間、回収までのサイクル、これにかかる費用を金融目線で見れば、最終的には売れる資産になるのだから、金利は本来、製造期間分が売価にどんどんと積まれていくのが普通だろうと僕は思う。だって売りが立ってから入金までの間、その商品を作るためのお金ってずいぶん前からかかっているわけだし、足りなければ銀行さんから借りて回してる訳だから、粗利率20%とか25%とかで「ぼったくりだろ〜」と責められても、じゃあんた最初から原材料費の積み上げ及び品質管理や生産管理できんのか?って話で、そこらへんの利便性も含めて中間業sy


ね。話は脱線するためにある。


だから、歩引きは計算する手間も省けるし、無くなった方がいいよね。

無駄に感情を逆撫でるしね。


でも起源を辿れば、まぁそういう仕組みもわからなくはないなっていうね。だからよくわかってないけど下請法的なもので守られなければおかしい!と声を荒げる前に、一旦冷静に、そういう取引をするためにあったかもしれない、お互いの善意の元の合意を辿ってみるのもいいかもしれない。

立場が弱い弱いって言ってるだけで強いと思ってる人たちを叩いてても、あんま世界は変わらんし。悲劇のヒーローは、世間から同情はされても、誰かが救ってくれるとは限らないし。相手には相手の正義もあるから、片方を裁けないよな僕らは連鎖する生き物だよ(ミスチル愛


今日はビールがお預けで少しだけ辛い金曜だけど、辛さの先に幸せがある(何ポエム

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