僕らがマスクを作ろうと思った理由。

いやこれは、思ったよりひどいことになってしまった。

今回の騒動で、得意先一連は来シーズン向けの展示会を取りやめ、または、小売側からは次回発注数を減らさざるをえないと通達があって、現段階ではまだ見えていない先の仕事が、おそらくは大きく減ることになるだろう。

僕らのような製造業はクライアントワークがメインなので、連鎖的に受注が減るというのは想像するに難しくない。


目下、展示会受発注中心の弊社は取り急ぎ売上減少はしていないが、期中(シーズン中でも店頭に服を投入するための)企画を中心に受注生産している工場は、目に見えて発注が減っているらしく、それなりの大きさの工場でさえ、仕事が埋まらずに困っているという。

そんな中、巷では布マスクの需要があり、そういった企画をたてた業者からの問い合わせも後を立たないという。実際に生産して多少なりとも売上を確保したいであろう工場にとっては、その手のオファーはありがたいものだろう。が、商品がマスクということもあって、やって実になる金額が満足に得られているかというと、それは微妙なところではある。いつまで続くかもわからないから、見知らぬ会社からのスポットのオファーというのは、この古臭い業界の我々にとってはまず『あやしい』と思ってしまい、なかなか思い切って生産を受託するということにはなっていないのも事実である。


実際、弊社取引先の工場から、生産キャパの不安を相談されている事実、僕らとしては、経済を回していきたい。しかし、オーダーは依頼済み分以外の受注は今のところない。だからと言って何かを無理やり発注して無駄にしておくほどのお金もない。


どうする。工場さんを放っておけない。


そうだ、マスクを作ろう。「お前もか」と言われようが作ろう。

見ず知らずの人からいくらもらえるかわからん仕事を受けるかどうかヤキモキしてる工場さんに、普段から取引のあるウチからの依頼で、ウチで販売するマスクを作ろう。


しかもせっかくやるなら、生地に何かしらの効果をつけよう。そうだそうしよう。

そういえば数年前、南さん(@minamimitsuhiro)さんから紹介してもらった業者さんで、『ナノファイン』という『抗菌』ではなく『制菌』という効果を発揮する溶剤を作っているメーカーさんと知り合った。


抗菌と制菌は何が違うのか?


抗菌とは、汗臭や食中毒の原因となる黄色ブドウ球菌の増殖を抑制する

制菌とは、黄色ブドウ球菌、肺炎桿菌、大腸菌を殺菌していかなければならない


つまり、抗菌は菌が増えるのを抑えるだけだけど、制菌は菌を減らしてくれるってこと。


マスクって、不織布が多いのには理由があって、フィルター能力が普通の織物や編み物に比べて圧倒的に高いし、ポリ某系(石油系原料)だから安価だし、使い捨てだから清潔だから。

でも使い捨てマスクって時間と共に内部が臭くなったりするし、使い捨てだから当然洗えないし、安価とはいえ、捨てるものだからゴミも増える。

もちろん使い捨てマスクのいいところはいっぱいある。でも僕は不織布使い捨てマスクを作る背景もないし、それ作ったところで、仕入先の工場さんたちや僕らにとっては何ら得にはならない。


そして不織布使い捨てマスク自体も、実は商品ごとにきちんと明記されているんだけど、完全に感染を防ぐものではない。これは防護服等のガチスペックなやつ以外、どんな一般的なマスクでも同じだ。

ただ、普通の布で作ったマスクは洗えるとはいえ、正直言って菌を減らす力はない。もちろん外気からのフィルターにはいくらかなるし、自分が持っている菌を外に出すことを抑えることもできるから無力ではない。


アルクロワークスとして、ultimate(究極の)clothing(服)をwork(作る)なら、今回は素材感が気持ちいいとか原料的に希少とかそういうんじゃなくて、布マスクを作る上でできることをやろう。そして売上減少に苦しんでいる取引先と一緒に少しでも何か足しになることをしよう。という訳で、前職に眠る組織的には崩れていなくて生地としては使えるけれど、うっすらと横段(シマシマ)が出てしまって服にはできずに困っていた生機をほぼ正規単価で買い上げ、その生機にナノファイン加工をして制菌力を持たせ、連休前に納品予定だった商品を飛ばされている縫製工場さんでマスクを縫うことにした。


化学検査機関に問い合わせたところ、布マスクのフィルター能力ではウィルスや菌を通過させてしまうとのことだったが、試験上、布に空気を通す作業での効果なので、当然不織布に比べたら劣る。でも先に書いた通り、不織布でも隙間ができれば菌やウィルスは侵入するし、完全ではない。僕らが作るマスクもしかり。完全ではない。でも、マスク自体を清潔に保てる機能はつけることができる。


弊社とてお金に余裕がありまくってる訳ではないので、これを無償配布とはいかず、きちんとした商品として販売していこうと思っている。予定価格は税込み¥1,650/枚と巷のマスクのように安価では無い。しかし原材料費や工賃、輸送費、そしてこれから上がってくる制菌加工済みの生地の効力を試験するための試験代など考えるとこれくらいの金額になってしまうことをご理解いただきたい。


「なんだ、結局我が身がかわいいんじゃないか」そういう人もいるだろう。そうだよ、僕は自分自身も、自分の家族も会社と会社に来てくれる社員も、その家族も、そして仕入先さんたちに対しても、僕の人生に関わってくれている人たちにとって少しでも足しになることをしていきたいし、まして家族と社員には守る責任がある。仕入先さんたちにもこの大変な時期を乗り越えてもらわなければ、危機が通り過ぎた後なんて言ってられない状況になってしまうかもしれない。だからできることをやる、ただそれだけだ。


長くなったけど、今作っている『ulclomask』は5月上旬から順次発送できる準備を進めている。商品名は駄洒落だ。わかってる。面白く無い。ここまで真面目に書いてきて、このオチは無いだろうと思いながらも、これしか思いつかなかったから、今回はこの辺で。


マスク販売開始のお知らせは随時このホームページ上で告知していくので、しばしお待ちください。

ulcloworks

ultimate/究極の clothing/衣服を works/創造する ulcloworks

1コメント

  • 1000 / 1000

  • 啓子

    2020.04.08 02:55

    抗菌でなく制菌 Ulclomask 期待してます。 政府の陳腐なコロナウィルス対応より、はるかに効果ありそうです。 足踏みしていては、何も始まりません。 流通なくして、経済効果はあり得ないし、山本社長みたいに良く出来る人は、家族も愛するそうです。そう、社員を含め関係する方々への愛も。