糸番手の考え方。

僕は性格が悪い。なんというか、天邪鬼だ。認める。

だから、『糸番手表記が糸の太さを意味する』と言われると、「それは違う」と言いたくなってしまう。いや、結果的には間違ってはいない、考え方が少しだけ、違っている。


短繊維のほとんど、いわゆる綿番手で言えば、20/1(にまるたん/にまる)などのように、/(スラッシュ)以前の数字が多ければ糸が細く、または少なければ太く、/(スラッシュ)以降の数字で撚本数を表現しているのは周知の事実だと思われる。

毛番手はこのスラッシュ前後の関係が1/48のように入れ替わって表現される。

麻番手は会社によるけれど、混合して使用する場合があるので、僕は便宜上、40/1Lなどと書き分けている。麻は毛番手表記する会社もある。これは厄介な感じ。いずれにしても数字が大きければ細いという概念がある。


またスラッシュは何本引き揃えたかという表現の際にも重要になる。

例えば20/1を二本引き揃えている場合は、20//2ということになる。三本なら20//3だ。

じゃ20/2を二本引き揃えたら? 20/2//2になる。こういう感じで表すのが適切。


ポリエステルなどの化学繊維やシルクの生糸などの長繊維の場合はデニール表記が使われる。E150Dならエステル150デニールだ。これを細かく書くとE150D72FとかになったりE150D48Fとかになったりする。この時のEはポリエステル、150はデニール数、Dはデニール、それ以降の72や48はFという単位で切られているのでフィラメントカウントと言って、何本のフィラメントで構成されているかという意味がわかる。デニールは数字が少なければ細い糸ということになっている。最近はdtxまたはT(デシテックス)を使ったりもする。

が、テキスタイルに興味が薄い人はもう何言ってんのこの人って感じだと思う。


ところがここまでがイントロからA,Bメロで、これからがタイトルにある『糸番手の考え方』のサビになる。


そもそも、糸番手を『太さだ』という捉え方をするには、全ての繊維の比重が同じだという考え方が前提条件になる。し、まぁ概ねその通りなのであまり注目はされないのだけれど、厳密に言えばそれぞれ物によって比重は違う。


天然繊維においては、恒重式番手という表記方法が採用されている。

1lb(重さ)で840y(長さ)が1/1(番手)という決まりがある。

さて、お分かりいただけただろうか。


重さに対して出た長さに、番手表記があてられる。

重さに対して出た長さ


そう、重さなのである。同じ重さの物を引き伸ばして出来上がった長さに対して番手が決まるので、糸番手というのは正確には糸の太さを証明するものではない。


屁理屈のように聞こえるかもしれないが、実際にこういう事故が起こりうる。

海外で紡績した糸が、国内で使っていた物と同じ番手なのに、生地にしたら目付が重く、

仕上がりメーター数が少なくなってしまった・・・


当然だ。天然繊維は個体差が確実に存在し、同一条件下で工業生産しているつもりでも、例えば綿では公定水分率が綿では8.5%と決められているが、その割合を自然界が保証してくれるわけではない。つまり環境下で比重は変動する。したがって、同じ番手を紡出しているつもりでも、製造ロットや時期、場所によってバラツキが出てしまうのだ。


生地を作り上げていく入り口の糸でさえこれだ。生地を作っていく上でイレギュラーが起こらないことなんてほとんどない。それなのに世の中のメーカーは完璧なものを求め、イレギュラーを悪とし、起こってしまった一切合切を作り手に押し付けると仕事を失いたくないもんだからそれを飲んじゃってだんだんそれが気持ちいいと思ううちに少しのズレも許せないせこい人間になってたよ。


ゴホン


えー、短繊維ではそうだろうけど、化学繊維をはじめとする長繊維は?という疑問が出るだろう。

長繊維は恒長式と言って、1gで9,000mの時に1D。または1gで10,000mの時に1dtxとしている。

おい、ちょ待てよ。

1g(重さ)で9,000m(長さ)の時に1D(番手)ってことは、やっぱこいつも重さが関係してんじゃねーか。

そう、重さに対する長さが基準になってる。逆か、こちらは長さに対して重さが基準になってる。同じ長さの中で、重ければ太いという考え方だ。でもこれも、厳密に言えば繊維種によって異なるから、必ずしも同じ太さかと言われたら、違う。


同じ重さのもので、より長く紡ぎ出せば、物理的に細くなるから、番手は太さという結論にはなるんだけれど、服を作っていくストーリーの中で、重さってやつはいつだって重要な考え方のを覚えておくと良いかと思われる。

その前提を元に、色んなことが起こるってことがわかれば、トラブルシューティングを完璧にしようとする仕事の無意味さに気づくタイミングがくる。未然に防げることは良いことだけど、起こったことを完全に起こらなくすることは、不可能に近い。

繊維とは数値化が困難な産業なのである。。。何があった。(何かあった)

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