ありあまるロス。

そう、生地一個一個の知識を深めていくには、まずそれを作る機械の構造を覚えた方が圧倒的に早く理解できるようになる。現場に行けば、目に見えて構造がわかる。いくら机上で学んでもきちんと理解できない以上、現場の人より詳しくなることなどありえない。

それなのに、指示する側が「安くやろう」という意識が故に、仕入先側の作業的負担を負うことで出来るはずだった物が出来なくなってしまう事もある。まぁ「安くやろう」という意識自体は全く問題ないんだけど、結果的に出来なかった時にかかるコストの方が、時間的にも金銭的にも大きいものだったりするから、正直ありがた迷惑な時の方が多い。


これが学び初めのアパレルメーカーが現場直指示で事故ってるなら同情の余地もあるのだが、テキスタイルメイクのプロであるはずの中間生地メーカーが事故ってるから世話ねぇなと。脂っこい稼ぎたい年代の生地メーカーほど、売上を追いすぎるがあまり、物作りがただの数字合わせになっているフシがある。

その結果何が起こるか。


例えば30mの生地を作るのに、10kg編まなければいけない時、普通編みロスを計算して糸を少し多めに入れる。そのロス率が机上で学ぶ場合は概ね無地編みの場合5%などと教えているが、これは量産時の平均値で、それぞれのケースで当てはまる定数ではない。この場合、30mしかいらないから10kg編めれば良い、しかし糸は1ケースで買わなければいけないので、約20kg買う必要がある。半分ゴミになるので、ロス率は50%になる。

これは糸が半分ゴミになる程度で済むが、30m作るのに10kgで良いとなると、たまに「じゃあ糸屋には悪いけどケース割れで半ケース10kgで糸を買わせてもらおう」というずる賢い人が現れる。(ロス率が机上計算で5%なら10kg買っても9.5kgは編める計算だ。だから30mより少し少なくなるかもしれないけど28mくらいは出来上がる計算だから2m足りないくらいなんとかなるだろうと。)

気持ちはわかる。糸50%ロスするくらいなら、少し足りないくらいの生地を作った方が、金額もゴミも抑えられるのだから。

ところが、10kg編む時に必要な糸は10kgではない。編み機の場合、給糸口(きゅうしこう)といって、編むための糸を入れるところが数十カ所ある。多いもので90個ある。10kg編むために、一つの編み口に糸を置く時、90個編み口がある機械なら、10kg÷90本で一つの編み口に対して糸一本あたり110g程度の大きさになる。

110g/本の糸ってどのくらいかっていうと、もう紙菅(糸を巻きつけてあるコーンと呼ばれるもの)が透けてみえるくらペラペラで、編み機に入って生地の目面を調整している内にほとんど使い切ってしまう。生地が編めてもせいぜい6kgだろう、そして編みきれないペラッペラの糸が90個まとめて2kgくらいゴミになる。

そして生地は30m欲しかったのに17mくらいしか出来上がらず、それでは困るので慌ててフォローすることになるのだが、同じ作業を繰り返して時間的にも金額的にも結果は倍近くロスすることになる。

この結果であれば、最初から糸を50%ロスしておいた方が、金額も時間もセーブ出来たことになる。かつ、工場からは鬱陶しがられる事もなく、お客さんも再現性が高い仕入先として信頼してくれるようになる。

数字上は作れるはずだから、この辺は実際に機械をみてみないと納得がいかないかもしれないが、現物を見ればそれが無理なのがわかる。生産は数字合わせでは出来ないのだ。

ところがこの不採算を工場の不手際として、生産者を詰めている人も散見されるので、(お前マジで現場行って自分でやれ)って心から思うのである。


机上計算で無駄を省こうと頭を使うことは良いことだけど、物理的に出来ること出来ないことを判断するには、やはり現場や仕組みをきちんと理解しておかなければいけない。何より製造している工業機械は、結構みたまんまの生産能力なので、百聞は一見に如かずとは良く言ったものだと関心する。

生存競争の激しい薄利多売の生地メーカー諸兄はこの無駄なロス率を減らすという企業努力を早々に改め、適切なリスクをとって適切な生産を心がけた方が良い。


0コメント

  • 1000 / 1000