信用残高という人間的与信枠。

商売を始めると、与信という言葉に触れることがあると思う。

雇われの人も営業なら新規開拓の際に顧客さんの信用情報を取得して口座を開設出来るかどうか会社へ稟議にかけると思う。

独立開業や、これからデザイナーさんとしてブランド立ち上げて商売していく上でこの辺を理解しておいた方がいいことを僕自身も備忘録として書いておこう。


今日はファッション業界にいる僕のケースで見てみる事にしよう。

まず、物を売るということは、物を作らないといけない。

もしくは仕入れなければいけない。

僕なんかは糸から仕入れが始まる。下記の図参照。

この全てのフローは入金ベースで言ったら超早くて3ヶ月、普通にいけば6ヶ月になる。

その間、仕入れが起きた物や工賃は月次で締めて翌月末に支払う。出て行ったお金が懐に返ってくるまでの期間は、結構ながい。

こういうのキャッシュフローっていうのは知っている程で進めていく。


仕入れ先さんは、僕に対して工賃なりのサービスを納品した対価を請求書にまとめて毎月締めで請求してくる。当然である。

実はこの月次で締めて翌月末まで支払いを待ってくれるって事が実は結構すごい事なのだ。

「僕はまだその商品の対価を受け取ってないのに払えないじゃん普通。だからその請求ちょっとお金が入ってくるまで待ってよ」って言いたい人もいると思う。気持ちはわかる。

でも僕がどこの馬の骨かもわからん輩なのに、とりあえず後払いで物を作ってくれている。

お金払えないかもしれないじゃん?そういう不安要素いっぱいなのに、自社の商品を提供してくれた上にいわゆる「ツケ」を許してくれている。


商品およびサービスは資産なので、納品や提供を受けた段階でこちらは工場から資産を借りている状態になる。

つまり商品で借金状態である。

お支払いが終わるまではその商品やサービスは仕入先のモノである。

それなのに僕に対して「払ってくれる」と信じて貸してくれているのである。これが与信だ。

お金の支払いが滞りなく続けることができて、仕入先さんと信頼関係を築いていくのである。商売が始まればこのように「信用残高」を増やしていくことができる。


タイトルの「信用残高」はこの商売における人と人の信頼の構築を、人間関係に置き換えた時にみる人に対する与信枠だ。

全く面識の無い人から、「〇〇を作って納品してください」と言われても、すぐに対応してくれる業者さんは少ない。

「BtoCは見知らぬ人だらけではないか!」というツッコミがありそうだが、基本的に小売全般は即金商売である。まぁわかるよね。


以前僕はとても困ってたみたいだったので、某社の生産を手伝った。ほぼ面識はない状態に近かった。

やりとりのはじめに入金サイトを確認する。

「納品後30日の現金振り込み(月末締め翌月末支払い)」をお互いに確約した状態でスタートした。

生産中多少の問題はあったものの、指示通り商品を納品して請求書を月末締めで送付した。

しかし翌月末に入金はない。

確認のため同社の経理宛に請求書のコピーをFAXして入金の催促をした。すると同社社長から電話があり、「あれ?ごめん山本くん、言ってなかったっけ?うち25日締めなんだ、月末締めだと翌月繰越になっちゃうんだよね!来月末は払うよ!そういえば取引契約書の判取してなかったね、すぐ送るから内容確認してハンコ押したら送って!」

んだと。聞いてねぇぞコラ。

まぁとりあえず「あ、そうなんすね、じゃとりあえず取引契約書送ってください。来月お願いしますね。」と言ってその場は引き下がった。

すぐに取引契約書がFAXされ(FAXかよ)、「同社と弊社は25日付で請求・・・翌月末に入金」と明記されていたので弊社判を押してFAXを返した。というか、この契約書今作っただろ。FAXだし。と心の中で思いつく限りのツッコミを入れながら。


そして次の月末、銀行残高を確認する。しかし、同社からの入金はない。

やろう、ばっくれやがったな。

早速前回と同じく請求書を経理宛にFAXして催促&社長に請求書を添付して未入金の旨をメール&社長に鬼電話。

山本「お約束の入金がありませんが?」

社長「ごめん、ちょっと確認して経理から連絡させる!」


~数時間後~

同社経理「納品いただいた在庫数と請求書の内容が合致しないため支払い保留になっています。」

山本「はぁ?それ今になんないと分からなかったんですかね。納品数と相違があればすぐに連絡いただきたいですが。」

同社経理「確認して社長から連絡させます。」

~数分後~結局相違はなかった。

社長「すぐそっち行って説明する!」

~数分後社長来社~

社長「いやほんと申し訳ない、正直どういう生産状態になってるか分からなくて気がついたら請求書が俺の机の上にどんどん溜まっててさ、売り上げ立ってないのに支払いばっかりが先行していつまでにどのくらいお金が必要か自分でも読めない状況が・・」

山本「(つーかそれ社長やばいよ)それは御社の問題ですよね、弊社としては約束通り商品を作って納めていますのでお支払いいただかないと困ります。」

社長「そうだよね、ごめん。一気に全額は無理だから今月はいくら最低でも必要か言って、その分はなんとかするから!」

山本「いやそりゃ全額っすよ。何言ってんすか、こちらは仕入先さんへ支払い全部終わってんすよ。」

社長「わかるんだけど、こっちも卸先さんから入金まだだしさ、、」

このやりとりの後、結局譲歩して2/3を10日後に入金、残額1/3を翌月末に完済すると約束し社長は帰っていった。そして流石にその約束通りに入金されたが、次シーズンのサンプル依頼の段階でデポジット(先に振り込み)じゃないと生産移行出来ない旨を伝え、商売はそれっきりである。

そして最近ブランドのECサイトを調べたら、ブランド自体無くなってた。

つまり誰に対しても信用残高を失い、ビジネスを続けることができなくなったのだ。

このようなノリで物販の仕入れをまともに受け入れられない人は、残念ながらいた。


この一連の流れを見てもわかるように、約束を守らないと人間同士の信用残高はなくなる。

相手のことを信用できなくなって共に何かをしていこうという気持ちはなくなる。当たり前体操だ。


こんなこともあった。

弊社と取引が直接ある工場ではないが、とあるOEMメーカーの下請け工場がOEMメーカーの顧客さんに対して仕事を出して欲しいとアプローチをかけたのである。

OEMメーカーからの仕事が薄くなっていたからなのかどうかは僕の知るところではないが、結局は当人同士が普段から信頼関係が上手に築けていなかったから工場がOEMメーカーに対して不信感を持ち始め、生存本能からの自己防衛作として「飛越し」をしてしまったのだろう。

OEMメーカーからしても、そんな飼い犬に手を噛まれるようなことをされたら、その工場に対する信用残高は減り、その工場へ仕事を依頼することも減るだろう。

工場からしたら、普段からのちょっとしたことの累積でそのOEMメーカーの信用残高が減っていたのだろう。


ビジネスといえばサービスとお金のやりとりなので人情など介入の余地が無いように見えるが、お金のやりとりである以上、人間同士の信用がいかに大事かということを改めて意識しておいた方がいい。

立ち上げたばかりのブランドさんや独立して新たにビジネスを始める人のみならず、人間的に信用が置けないとつまらんところで躓くから、普段から人にされたら嫌なことを人にしないなど、小学校の道徳並みの当たり前な道徳を心得て人に接することで、人と人の信用残高が増えていくのだ。

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