資金繰り。

我々中小零細企業にとって、資金繰りはおそらくいつも悩みの種であろう。

特に季節商売感が強いファッション向け繊維製造の場合、売り買いのバランスは時期によって大きなうねりを伴う。


周囲にも同世代で独立開業を志す面々が増えてきたので、改めてキャッシュフローの大事さを周知したい。会社員時代に机上で叩いた『いける』感は、種銭の大きさで全く違う結果を生むことになる。


僕自身、独立する前にはそれなりに用意周到に資金計画したつもりだった。渋谷区の制度融資斡旋の中小企業診断士は「これ自分で作ったの?すごいね!」と言ってくれた(が、結局は何も始まっていない状態で絵に描いた餅だからどうとでも描ける)ので、それはもう、これ以上ない『いける』感が身体中を満たし、全知全能の神にでもなったかのように意気揚々とVOLVOのディーラーに乗り込むほど調子に乗っていた。実際には「会社員の内に買ってくれ」と言われ、結局今も外車のようなものには手が届かない。いやむしろ、その時に買わなくて良かったとさえ思うし、今買おうと思うかと問われれば、無駄ではないかもしれないけれど大きな出費はなるべく差し控えたいと心の底から思うので、たぶん今後外車に乗ってイキってたとしたら相当儲かったか、または狂って終わりの始まりを歩み出したかのどちらかだろう。

別に外車に乗ること自体は別に悪いことじゃない。僕の現状から未来に対しての話である。今はまだ、そのフェーズじゃないな、というだけ。


製造業は、受託後に材料を仕入れ、組み立て依頼し、完成品を指定納期で納めて期日締めから支払日までの期間を耐える資金が必要になる。

この期間、案件によっては企画立ち上げから提案、サンプル、量産までの一連で入金まで長ければ一年仕事だ。2シーズン展開の先で、展示会からデリバリーの時期まで半年間あることを考えれば、この一年という時間軸は全く大袈裟な話ではない。

物を見せなければ始まらないような仕事なので、提案サンプルの作成費だってそれなりに積み上がる。中にはボツって死金になる物も当然出てくる。

それでも売り上げが立つまでの期間、仕入を起こし、経費を払いながらいつか入ってくるであろう売上金と微々たる利鞘を心待ちにして日々お客様を思い、やるべきことを積み重ねていくしかない。


売上が大きい案件ほど、当然前払い費用は大きくなる。手持ち資金が少なければ、売り上げ入金までに余裕でキャッシュアウトで負けのゲームだ。そのために必要な資金調達という仕事もしなければならない。


ではなぜ用意周到だったはずの資金計画が狂うのか。

工賃仕事の皆様は、割と日銭感覚の方々が多いのでこれは珍しいことじゃない。僕だってこのポストみたいに、無いものを入れ込むほどの厚かましさはなかったが、生地屋だった頃は納期が月末微妙なとき、本気で詰めて売り上げ立ててた。

売上が足りない時なんかはもう必死でやった。31日付の出荷明細引っ提げて無理やり押し込んで数字上げてた。生機売りなら編み工場さん、生地売りなら最終加工場さん、みなさん同じで月末の売り上げつけたいから結構無理してあげてくれた。

この気持ちは営業やってる人ならわかると思う。だって数字つけないと上がれない時あるから。

で、生地メーカーさんたちが粘って頑張って売上を作ったその先の、受け取る人たち(お客様)からすると、末日出荷の材料は当月締めで換金性のない在庫になる。

納期が先でよかったものまで入ってくると、いよいよ持ち出し期間が長くなる。そこへ早く材料が入ったもんだから、縫製工場様も早く上げてくれる。本来は心からありがたい話であるが、一方で資金繰りの観点からすると、納期が先であればあるほど、会社の体力がなければこれは大変な負担になる。


なんとか固定費や先行仕入を耐え切って、ようやく売上がたったとしよう。

ところが納品日が微妙に月末近くなんとも怪しげな雰囲気の空気がお客様に漂ったら、伝票の日付を翌月にしてくれなんて話があったりなかったり。

これは双方合議がなければ基本的にはアウトだが、事実は小説より奇なり。

会社員時代はいとも簡単に通していた可能性のある売上のズラしは、会社立ち上げ初期であれば命に関わる大問題にかわる。

銀行筋への融資相談はキャッシュが足りないとわかってから相談しても概ね間に合わない。

この一連を経験すると会社員がいかに恵まれた環境で無双できていたかを痛感することになる。


世の中の社長さんたちは本当にすごい。どっかでバグらないと冷静に帳簿見れない。僕も創業当初は寝れなくて酒飲んで気絶しないと夜を越せなかった。今は麻痺った。夜全然寝れる、なんなら夜以外も寝れる。人間不思議なもんだ。

かっこつけていうなら、覚悟が決まってやることがはっきりしたから、心が折れなくなった。あと、いつどういう感じかってなんとなくわかってきたのと、社歴が少し出てきたので資金が回り出したというのもある。

それでもやはり、デカい案件がぶっ込まれると、慌てないけどそれどうやって工面するかに集中する。超薄利だけどやり切れば売上1億だよって案件もロスったら負ける(利益が吹き飛んで赤字になる)可能性があるなら降りる判断をすることもある。


そういえば大昔、糸の発注を一発で¥1,600万仕入れる発注切った時、前職の先代社長から速攻で電話かかってきて「お前これ、誰が金払うんや!!!」と千駄ヶ谷中に響いたんじゃねぇかってくらいの怒号が飛んできた。バンドマンで大音量に慣れている僕でもさすがにチビった。

今ならわかる。まずその仕入、出口(現金化する目処)はあんのか?ってところと、出口あったとして今会社にその限月払いのキャッシュがあるかどうかが問題で、好き勝手に買い物すんじゃねぇぞこのクソガキが、といった具合の内容で怒られた。


とまぁ、やってりゃ計画通りにいかない時だってある、イレギュラー前提で資金繰りも余裕を持って計画することを、これから仕入れからやるOEMに限らず、ブランド立ち上げとかで起業しようという方はご留意して始められたら良いかと思う。みなさん聡明だから大丈夫だと思うけど。ニワトリたまご論はあれど、立派な理念も経営安定しないと実現しないものだから。

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