丸編み生地製造の勉強-裏毛編-

予告通り、今回はみんな大好きスウェット素材の裏毛の話。
僕も自社ホームページのトップ画像にするくらいこの組織は大好きだ。
原料や機械選定によって、かなりこだわりやウンチクを詰め込みやすい素材なので奥行きがかなり深いため、今回はその組成をさらっていこうと思う。

裏毛は天竺と同じシングル編みである。
表糸、中糸、裏糸の三部構成で、表糸は一番表面になる天竺面を作り、中糸は「つなぎ」の役割で、裏糸が作り出すループと表糸の組織をつないでいる。
それぞれの役割はざっとこのような感じだ。
↓この写真ではピンク色の糸が中糸で表と裏をつなぐ役割になっている。(画像は前職のHPより拝借)

↑そして裏糸のループは「飛び」という機械の設定によってループの幅や、そのループが作り出す柄が変わってくる。この写真は「2飛び」で中糸につながれていく間に針が2本入っている。これによって綾柄のループが出来上がる。

カットソー業界に入って裏毛のベースを教えられる時に「30/10(サントー)の裏毛」というやつがある。
これは表糸30/1左撚り、中糸30/1右撚り、裏糸10/1(左撚り)の18ゲージ(中国製は20ゲージが多い)で編まれた2飛びの裏毛のことを言う。
おそらくは誰もが見たことのあるだろう超定番の裏毛のほとんどがこの構成である。
これをベースに厚くするには「飛び」を変えたり、表糸の番手を太くしたり、裏糸の番手を太くしたりする。
ちなみに弊社ホームページトップ画像は共に14ゲージで三飛びのループ柄で作られた生地である。糸使いはそれぞれ全く異なる。

先ほどの解説の中で「表糸30/1左撚り、中糸30/1右撚り」と書いたのは、単糸は基本的には左撚りで、左撚りだけでは生地になった後、服を作って洗うと斜行(服がねじれる)が起きてしまうので、中糸で左撚りの逆である右撚りの糸を使うことで、ねじれが起こりにくくするためである。
糸の撚りとかに関してはまた別の機会にきちんと解説していきたい。

裏毛というと、吊裏毛というものにも触れておかなければいけない。
「吊だから良い」みたいな思考停止ワードもあるが、何故吊だから良いのか本当に説明できる人はいるのだろうか?
吊裏毛は構造上、編み機の形状そのものが違うので同じように説明はできないが、一台で生産できる量が一般的な裏毛に比べて圧倒的に低いというのがわかりやすい違いだろう。
↓吊編み機。
↑シンカーの高速機。
現在、生産のほとんどが後者の高速機で編まれている。
裏毛の編み機の場合、基本的には24口(表中裏糸それぞれ)で編まれ、機械が一回りすると生地が24目出来上がる仕組みである。
それに対して吊編み機は1口しかないので、機械が一回りしても1目しか生地が出来上がらない。この時点で機械一台当たりの製造コストは24倍高い。
加えて高速機はベラ針という針を使用していて、カムという針の通り道を通ることで一定のクオリティが得られるのに対して、吊編み機はヒゲ針という旋盤に水平に針を設置していくのだが、これを水平に保つのが人間の技術に頼っているので調整に時間がかかる上に職人の技術に非常に依存する。ここまでで希少性からくる付加価値は役満級である。


ここまでウンチクで盛り上がって産み出される生地の風合いの差が、玄人筋には大ウケするもっちり感だったり、生地の耐久性だったりする良さはあるのだが、一般消費レベルにすると値段が高すぎる。
普通の人には伝わらない部分が非常に多い。

製品を作っている本人たちが自分の顧客さんの嗜好を理解した上でこの吊裏毛を使用するなら納得できるのだが、一過性のノリでブッ込んでくる大手さんが結局は「なんでそんなに高いんですか?」って言っちゃうのでマスには到底受け入れられないし、受け入れられても生産対応できない。吊だから良いしか言えないならチャレンジすべきではない。

なのでこれから自社ブランドでこだわりのスウェットやりたいと思っている方々には高速機でも作れる唯一無二の裏毛はいくらでもあるのでそちらにチャレンジしてもらった方が市場にアジャストしやすいのではないかと僕は思う。

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