感情という数値化できない物で動く生き物

製造業において、理論的に説明できない部分があるとしたら人としての感情という要素がある。

スポットの商売しか持たないプレイヤーに対して、年間バルクが見えている相手と同じ対応を求めるのは無理なのである。

僕は一定の背景を持っている工場に対して、ある種やや極端に集中して仕事を入れている。
仕入れをして物販をしていく以上、安定供給は大切なことである。
仕入先をちょこちょこ変えてはこちらの都合だけで付き合うという事を続けていると、仕事に一体感がなくなるし工場側の心情もよくない。コストの折り合いがつかない局面での相互協力や、少し無理な納期に対しても優先的に段取りを入れてくれるなど融通が利かなくなるのである。

去年の今頃だった。
業界最大手の某ブランドさんから吊裏毛をやりたいと依頼があった。
吊裏毛とは、画像のような梁から吊り下げた編み機を利用して編まれるスウェット素材で、一般的な裏毛に比べてふっくらしている。
なぜふっくらするかというと、裏毛は表糸、中糸、裏糸と三層の組み合わせで出来ており、一般的な裏毛はアイロやシンカーという部品が付いていて、表、中、裏、とそれぞれに糸の長さを調整して機械が一周する間に少ないもので24目、多いもので30目編み下ろすことができ機械の下部で引っ張りながら巻き取っていくので高速に編み下げていく事ができる。一日中機械を回せば物によるが150mくらい生地が出来上がる。
対して吊裏毛は、アイロもシンカーもなくしかも機械が一周回っても1目しか編めない。巻き取る機能もないので編まれっぱなし。
しかし糸の長さが表中共に同じ長さで編まれていき、かつ引っ張り巻き取られることなくテンションがフリーなので生地に無理な力が掛からずに済む。一日に10mほどしか作れないスピードも特徴である。
よくある吊裏毛の風合いの表現に「空気を編む」と比喩されるのはこういう過程からである。

非常に古い機械であり、保有台数もほとんどないものなので継続的に仕事を入れていないと生産スペースが取れない代表みたいな生地である。吊裏毛を定番使用しているメーカーさんは年間計画を立てある程度生産保証を取りながらきちんと工場と取り組みをしているのである。
そこへ大手さん、無茶振りなスケジュールを押し込んでこようとするので、物理的にこれらの事情を説明して理解を求めると、「一日10mは編めるんですよね?じゃあ3日で30m作れますよね?」と、実働物理時間を押し込んで来ようとする。
他社との兼ね合いがあるのでタイミングが合えば作れるし、スペースが取れなければスケジュールを合わせる事ができない旨を説明すると、「ウチの仕事が出来ないって言うの⁉︎」と、ヒステリックに声を荒げてきたので、「御社の為に世界が回ってるわけではないのでもう二度とお仕事お受けできません」と伝えた。

大手の仕事欲しさにこういう無理を無理にでも受けて怪我しながら生産している業者をたくさん見てきた。
怪我しながら、大手の脳足りんな企画生産を甘やかして一体誰が幸せなのだろうと日々思うのである。

なんか表題から脱線したかもしれない。
してないかもしれない。

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