丸編み生地製造という職業にたどり着くまで-9-

生産は和歌山が中心だった僕が、お客さんの意向で先染めのボーダーやジャカードなどを依頼されるようになると、和歌山だけでは作れないので他産地に依頼をする必要が出てきた。

和歌山では無地機(その名の通り無地を編むのに適している)は多いが、ボーダーや柄編みなどに向いている機械はそんなに多くはない。
無地機でもボーダーを組むことは出来るが、編み機のフィーダー数が限られていて色数やボーダーピッチの制限が多い。
それに比べて切り替え機といって、オートストライパーという装置を着けている編み機は柄を作る上である程度の制限はあるがほぼ無限に近い可能性を持っている。
↑無地編み機でボーダーを組んでいる様子。フィーダーと言って糸を送り込む口数が決まっているためそれ以上のピッチのボーダーを組む事ができない。
↑オートストライパーといって、一つのフィーダーに最大4色をコンピュータ指示で送り込む事ができる切り替え機。

先染めの生地は両毛地区か、尾州地区が多い。
もちろん同産地にそれぞれ取引のある工場はあったが、その特性上メインワークを依頼している工場はなかった。
「仕事があればお願いする」程度のスポットな間柄なので工賃は高くなるし、納期も後回しになりがちなので「納めた時が納期」みたいなこともしばしばあった。

無地ほど数量を必要としないこともあり、小ロット生産ばかりでは仕事の量も多くない。
クオリティは低いのに、値段は高いし、納期は遅れるという有様だった。
産地としては素晴らしい背景なのに、クオリティまで低いのはなぜだろうと考えた。

「コンバーターは舐められている」
そう感じたのは、柄組指示をする時である。
お客さんからのボーダー指示の多くは赤〇cm×青〇cmのような指示が来る。
しかし編み地は編み上がりと整理上がりでピッチが変わる為、指示する時にはコース数(編み目の数)を指示する。
複雑な柄になるほどヤーンテーブル(糸の編まれる順序を記した設計書)はややこしくなり、ミスが出やすくなる。
しかしこれが出来ないと使用する先染めの糸の使用量が計算できないから糸も手配できやいなど、コンバーターとしては工場からかなりの確率で舐められる。
単純な天竺組織ならそれほど難しくはないが、ポンチとミラノリブなど見た目は似ているのに1組織作り上げる組織図が違うものなどになると、ヤーンテーブルを書き損じるとまったく予期しない柄の生地を作ってしまうことになる。

中途半端な知識でこれをやった時、とんでもないピッチで生地が上がってきたことがあった。若造相手に工場のおっさん達は容赦なく「そんな指示もできないのか?」とか言ってくる。
(実際には現地にそういう指示を細かく出せる「振り屋さん」がいて、ほとんどの人はその振り屋さんに依頼する。)
ここがクオリティが低い最たる要因だった。
若さゆえ、怒りがこみ上げたが工場が作ってくれないとお客さんも困る。
このまま舐められては先の仕事につながらないので、ここは一旦バカになり、「すみません、本当シロウト質問で恥ずかしいんですが、〇〇を編むとき組織図はどういう風になってるんですか?」と、まったく知らないわけでもないんだけど理解が足りてないなぁと思わせるレベルで質問をすると、意外と工場のおっさん達は親切に教えてくれるようになった。

工場の人たちは自分たちが動きやすく指示をしたり仕事を入れてくれる人に対してはとても協力的である。一方的な依頼をしてくる人を好まない。仕事だからそういうのはナンセンスなのかもしれないけど、やはり職人の仕事は感情に左右されるのである。
色々と教えてもらいながら指示書がほとんど完璧になると、工場の人は段取りが非常に取りやすくなったと喜んでくれた。
糸の手配もしやすくなるし、クオリティも安定してくる。
相変わらず値段と納期は、もうちょい努力してほしいけど、概ね満足のいく仕事ができるようになった。

まだまだ完全に全ての知識があるわけではないので日々日々勉強だが、常に謙虚で工場の職人さんを敬いながら、知識と技術をきちんとクオリティにつなげていくことが、お客さんに喜んでもらえる近道だと信じている。

永遠につづく

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