QR。
アパレル製造でいうところのQRとは、クイックレスポンスの略であることがほとんどだ。
トレンドを見極め、的確な企画をスピーディーに生産移行し市場に供給する。とても理想的なカタチだ。
今これが売れる!となれば、今すぐそれを作って売る。すごく合理的だ。
このブログを読んでくださっている皆様であれば、この合理的発想の裏にある理不尽な矛盾点は容易に想像つくだろうが、今回はあえて、『経済ロット』と同じくらい曖昧な物差し『LT(リードタイム)』について、大まかに記しておく。
これからアパレル生産に関わりたい、生産側のお気持ちも理解して進めていきたい気持ちがあるという稀有な勇者たちに贈る。
一般的に想像されるQRの期間はどのくらいだろうか。
発注後2-3週程度のイメージか。
絵型描いて仕様書ができていて、パターンも生地も準備出来ていて、サンプル確認も終わっていてからの本生産数量発注で縫製期間だけが2-3週というのは物理的には不可能ではない。カタチや数によるけれども。
事前準備が整っていてこれくらいだとわかった上で、全く白紙の状態からではどうだろうか。
最近の商品計画は販売時期を決めてリードタイムを逆算することが多いが、企画(やりたいアイテムの方向性レベル)が整ってこれから生地選びやサンプル作成に入るというキックオフ段階で残り2ヶ月という話もザラにある。
これもまぁ、OEMの馬力(生産背景の非常にありがたいご協力)があれば物理的に可能ではある。しかし生地は在庫ものを引いてくるしかない。
ざっと、超雑に書いてみた。以下時間軸は物理的に可能ではあるというレベルで、必ずその期間で作れるというわけではない。企画内容や取り組んでいるサプライヤーのパワーバランス、生産量や世界情勢によっても変わる。つまり、案件に応じて都度確認するしかない。が、これくらいの時間軸の把握があると、「こ、こいつ無茶言いやがってこの野郎!ブッコロs」なんていう無駄な感情摩擦を軽減できる可能性がある。ちなみにそこら辺を無視して上から言ってくる輩に関して、サプライヤー勢の内心ではブッコロ助である。
『わたレベル』とは、例えば機能繊維の開発だとしたら、それこそ数年レベルになる。
紡績や原材料メーカーが持っているワタを、掛け合わせてオリジナル配合にして糸を作っていく場合も糸別注ではあるが『わたレベル』に分類させてもらった。在庫原材料のブレンド紡績別注程度であれば、数によるが6ヶ月くらいから生産が現実的な世界になってくる。
『糸レベル』は撚糸など、在庫糸を掛け合わせることでオリジナル糸とする場合から、紡績メーカーが開発提案として試紡糸を持ってきた場合、その番手変えや試紡糸の量産から別注を仕掛けていくレベルなどを含めている。
在庫糸の掛け合わせであれば、撚糸工場の混み具合によるが、4ヶ月程度~可能性が出てくる。
『織、編レベル』は在庫糸使用の組織オリジナルなど、この辺からある程度の規模があるアパレルメーカーやブランドには馴染みが出てくるかもしれない。
余談だが、ぶっちゃけスピニングテクニックや原材料だけ提案してもそこから糸作りの発想に至る人はもうほとんどいない。まして開発試作糸を見せても、商品企画までもっていける人もかなり減った。そこまでは準備されていて、さらに編み地や織り柄など、テキスタイルになってないとイメージができないというレベルがここ15年くらいで、もっというと生地だけじゃなくて製品のカタチになってないと企画にならないというのがここ10年くらいだろうか。
『染色加工レベル』は、生機ありき。つまり糸も決まっていて、編地や織地の染色前の状態で在庫がある場合を指す。色別注やシルケットなどの風合いでオリジナル感を演出していくことが可能である。2ヶ月~と書いたが、正直2ヶ月はかなりきつい。加工内容によっては加工だけで2ヶ月待ちもあり得る。何度も言うが、あくまで物理的には可能性が出てくるレベルで捉えてほしい。案件によって都度確認が大事だ。「生機あるなら二ヶ月でできるっしょwww」ってぶちかましてくるやつは総コロ助。
余談だが、たまに「この生地のピーシタあんの?」って言ってくる人いるけど、これはプリント用下晒(または製品染用下晒)の状態で在庫がある状態を聞いている場合が多く、生地作りがプリント柄からオリジナルという人たちにとっては馴染みが深い表現かと思われる。プリント用下晒、略してP下(ピーシタ)である。生機在庫の有無を問う場合でもこの言い回しをする人がいるし、生地問屋さんの中にも相手に生機の意味が通じない経験が重なってくると、生機ありの情報をP下ありと言ったりする人もいる。
『在庫生地使用絵型オリジナルレベル』は冒頭で書いたイメージが近い。最近ではこのケースが一番多いタイプではないかと思う。
絵型や量産向けサンプルやパターン、生地在庫の確保や縫製キャパの確保など全て準備ができていて、純粋な生産期間が1ヶ月なら、最近では優しい部類に入ってしまうくらい、昨今のオファーは時間が足りない。
『有りボディグラフィックのみオリジナルレベル』はもうそのまんま。売ってるボディにプリントや刺繍を入れるだけ。
最近は有りボディ界もかなりバリエーションがあるので、ネームタグさえ切ってしまえばどこそこのソレとは気付かれずにオリジナルブランドとして展開できてしまうやつだ。グラフィックに価値があるアーティスト系はこの路線が一番ロスも少ないし適していると言える。
工場さんとの仲にもよるが、1ヶ月くらいあれば作れる可能性は十分にある。
ここまで、あくまで期間はイメージだ。必ずそうだという保証はどこにもない。何事も絶対はない。このブログで読んだからこの期間でできるんですよね?なんてふっかけるのは最悪の手だ。自分の心構えとして、これくらいは必要期間なんだという粗見積もりを持った上で、きちんと案件ごとにサプライヤーと交渉し、しっかりと回答をもらってその上で商品計画を立てていただきたい。
市場が待ってくれないのは承知の上で、作り手もある程度は協力姿勢をとる必要があるのはわかっているが、昨今の円安の煽りで国内生産キャパシティは去年と、いや春先の頃とは全く景色が違ってきている。上述した期間でも足りないくらい生産キャパは埋まっている。
生地別注を仕掛ける時は生地屋にリードタイムを聞いた上で、残りの時間で縫製をやっつけるという発想ももう通じない。縫製は縫製で、しっかりと年間計画できているメーカーが握っている可能性が高いので、仕事があれば多少しんどくても喜んで受けると思っているとコロッケにされてしまう可能性は高い。
これらを踏まえた上で、双方にとって良い商取引ができることを願う。
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