不良か、良さか。

最初からトラブルは起こると思っておけば、基本的な構えができる。準備はしっかりしておくのが好ましい。


繊維業界の当たり前は、一般購入者の方々にとって当たり前ではない。

僕ら繊維戦士にとっての常識的な範囲の理解を求めるのは難しいことなのかもしれない。物理的に許されて然るべき事象も、知らない人からすると『不良品』というクレームになりうるものである。

そういう物理的不可避なデメリットを商品購入後にクレームとして受け付けない線引きみたいなモンとして、第三者機関による性質試験があり、認められるべき基準が存在し、それに準じてデメリットタグなどを作成している。

ところが、それでもクレームとして川上方向へ戻ってくるようなトラブルは起こる。

各階層での知識不足は否めない。育ってきた時代や環境がもう違うから。それ自体嘆いたところで何も解決しない。


消費者を守る法が強すぎて、ちょっと攻めた企画がしづらい世の中になってきた気がしなくもない。いつぞや見かけた某大手の太番手ウールローゲージニットの商品ページに書き込まれたクチコミは「毛玉ができる粗悪品」などあり、これはもう、どうしたらいいのだろうと勝手に悩んで繊維製品試験機関のOBに電話相談したくらいだ。


この手の現象が頻発してくると、製造側は「買い手の質が下がった」と嘆くようになる。これもう何順目の話だ、という感じで。そこを一方的に他責してしまうと、自分たちはそのままで良いとなってしまって、発展性が閉ざされてしまう。気持ちはわかるが、前向いて進むしかない。


前職時代に生地問屋様を担当させていただいていた頃にも感じたことなんだけど、生地提案段階でさえ商品説明をしっかりする場面が年々薄くなってる気がする。売るための原料背景や希少性などの生地蘊蓄はすごく求められるのに、取り扱いに関する情報として必要になる『物理的特性』はあまり大事にされていないと感じたものだった。


一見で雰囲気が良く、触ってさらに気に入ってもらえて、そのまま鏡で合わせて自分に合っていればそのまま購入というのは、非常に良い。昔どこかの代理店さんも「放っておいてもお客さんが勝手にレジに持ってきてくれるようなブランドや商品がええんですわ」とおっしゃっていた。そりゃいいよね。

でも買ってもらった後に起こりうるトラブルを、商品を見ただけで判断できるのは繊維戦士くらいじゃないかと思えば、やっぱ販売してくれる皆様にも「この商品は風合いを出すために〇〇の加工をしてるので、擦ったら毛羽が他のものについて色が移ったように見えてしまう可能性があります。そうなってしまった時の対処法としては〜」くらいまでの知識があると、買った後も安心して着用やお手入れしていただけるのかなって思う。お店にたどり着く前に企画から生産まで(あるいは納入業者でさえ)もが知識欠落してる可能性もあるから、なかなか簡単ではないだろうけれども。


ネット販売なども普及してきて、企画立ち上げから納品までのスピードがどんどん早くなる中で、値段、カタチ、数量、納期重視的なパズルゲームのような打ち合わせが増えているように思う。そこへ知識の薄いOE(D)Mが挟まって段取りしてしまうと、その生地や洋服の仕様がどういうクレームにつながるか?という想像力に欠ける場合もある。

全体的なスピード感や企画自体の無理が影響してクレームが頻発してしまった時、改善策として『使ってはいけない生地』などが生まれてしまう。でも、安全に進めていこうと無難な生地や仕様にしていくと、商品自体が同質化していく可能性も出てくる。色と形はちょっと違うけどこれ同じじゃね?的な。槇原の歌全部同じに聴こえない?僕だけ?みたいな。違うか。


物理的に安全な企画って悪いことじゃないと思う。ストロングポイントが商品よりアイコンだったりすると意識するところは企画じゃなくなってくるし。デメリットがあれば販売数量に直結する可能性だってあるし、それこそ、物性安定してて使いやすい生地がたくさん売れるなら、原料サイドや生地屋さんとしてはその方がいい。楽だし、クレームになる心配も少ない。安心。

でも「こういうのやりたい!」っていうターゲットが出てきた時に、表現を優先するとして生地のデメリットを飲まなきゃいけない企画ってあると思う。そういう企画側の熱量も含めてこういう商品になってるんだって伝えることができたら、きっとクレームって減るんじゃないかなってなんとなく思った。

いいなと思って手に取った服が、ちゃんと狙いがあって危うい生地を使って作られてるけど、そこは企画側のファッションに対する熱量だってところまでわかったら、愛着も増す可能性はある気がした。愛が、もっと必要なのかも。全体的に、愛が。

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