憧れと失望。

ちょっと前に、割と仲のよかった人が業界を離れた。

彼曰く「このままだと服が嫌いになっちゃう」とのことで、それはもう服が好きで好きでたまらん人の、業界裏側を知ってしまって仕事としてやっていくと自分の憧れを汚してしまう的な感じの話をされていたと思う。

程度の差こそあれ、そこまで好きで惚れ込んだ業界で働けるってのは幸せとイコールではないのだなと思ったのだった。

それぞれの人生であるから、僕がどうこう言えた義理ではないので「今までお疲れ様でした、次の業界でも頑張ってください」と通り一遍の挨拶しかできなかった記憶がある。


もう20年近くも前の話になるが、僕が仕事として繊維業界に入隊する時にいわゆる『憧れ』みたいなものは皆無だった。

夢も希望もない話に聞こえるかもしれないが、僕にとって当時の夢はロックスターになることであり、ミスチルの櫻井御大やイエモンの吉井御大のようにデカいステージでたくさんの人に勇気や希望を与えることに憧れていて(ベース弾きだからそもそも違うけど)、ファッション業界でキラキラすることではなかったから。

重ねて、実家が繊維(縫製工場)だったこともあり、工業サイドからのファッションとの関わり方を見て育ったので、最初に所属した丸編生地製造工場もナチュラルに工業サイドの、ファッション業界の光が当たりにくい世界に対してなんの失望もなかった。


この業界で通り過ぎて行った人たちの中には、わかりやすく「思ってたのと違った」という人が少なからずいた。そして今年、春から新社会人(または異業種から中途)として入隊してくれた方の中にも、そろそろ「思ってたのと違うな」と思うようになってきた人も多いことだろう。

それぞれの人生である。思ってたのと違うから業界を変えるのは全然ありだと思う。

全然ありだと思うんだけど、入り口で持っていた業界に対する『憧れ』みたいなのがデカければデカいほど、思ってたんと違う時の失望はデカくなってしまうのだろうか、業界自体がもう『悪』みたいに周囲に撒き散らして、「自分は業界の被害者!」みたいになっちゃう人がたまにいるのも困ったものである。

正直、どの業界も待遇とかそんな差はないと思う。繊維業界のことを悪くいうのやめて差し上げて。


専門学校時代、非常勤の先生は授業中「勘違いしないでよ、あんたら芸術家じゃないのよ、仕事なんだからね」っておっしゃってた。学生に向かってこれから入るであろう業界に対してなんと冷めたことを言うもんだと思った反面、僕自身は冒頭から書いているようにこの業界に憧れ自体がないので、(まぁそうだよね)と内心思ったものである。

専門在学中から縁があって前職にアルバイトとして潜り込むことに成功した。どうやって潜り込んだかはこちらを参考にして欲しい。↓


『希望の数だけ失望は増える それでも明日に胸は震える』櫻井御大はとんでもなくポジティヴだ。そしてそんな彼らの歌に何度救われたことだろう。業界入隊後数年、僕は当初の夢であったロックスターの道を自ら閉ざした。彼らのようにドームや武道館でライブをすることなく。

当時は色々言い訳したし、周りのせいにもした。こんなに頑張って行動したのに報われなかった的な失望はそれなりにあった。でも多分、そんなの僕だけじゃないだろうし、憧れた世界で活躍できない人の方が世の中多いのだろうから、失望して周囲を悪者にすることで救われる心があるのだろうか。または、悪態ついて改めて憧れの世界で返り咲くことはできるのか。と、自問自答し荒れ狂う気持ちを鎮めて今に至る。


業界の先輩たちや世間の大人たちが言う「今時の若い奴は・・・」みたいなのに反発したくなる気持ちはよくわかるし、反発していいと思う。むしろそんなつまらん奴らのせいでこの業界を嫌いになって離れてしまうのはもったいない。そんなつまらんことで潰れてしまうようなら、老害たちが言うような軟弱体質なんだろうと判断されてしまう。こんな体育会系ノリは僕も苦手だが、こういうつまらん思考の連中はやむをえず同じノリで立ち向かうしかない。なんせ脳みそ筋肉だから。奴らは奴らなりにそれで生き抜いて今も現存する実績がある。なのでそこはちょっとマッチョに立ち向かう必要がある。続けていきたいならね。カタチはアレだけど、そんなつまらん奴らなりの頑張れよってエールなんだなって思って。しょーもないけど。

または全無視決め込んで粛々とやるとか。

製造に関わってくると強めにチームプレーが求められる。劇場型繊維製造現場は粛々タイプに理解を示してくれるまで数字で結果を出し続ける必要があるので最速で数字を叩き出す高スキル取得が必須になる。その裏には会社では教えてくれないようなことも必要になるだろう。それを会社が教えてくれなかったからできなかったと言ってしまうと振り出しに戻るので注意しよう。


今はさまざまな救済措置もあるから、会社や業界を敵にして守られることも増えてる。そういった風除けを盾に、特に努力もせず一定の自尊心を満たすことも可能な世界だ。でも本質的な部分で社会から必要とされないキャラに仕上がってしまうと、せっかくの『憧れや希望』も輝きを失ってしまうのだろうな。難しいね。いろんな事情の人がおるからね。決定的な善悪は存在しないと僕は思ってるし。なんの話や。


「好きなことを仕事にした。言い訳できないって思った。」なんか昔そんな感じの決め台詞のCMなかったかな。

僕はそんな憧れを持ってこの繊維業界にきてくれたみんなが羨ましい。日々着用する洋服で人を幸せにすることができるなんて素晴らしい世界だ。そんな仕事に関わっていることに誇りを持って生きようと思う。そして繊維業界に憧れを持っている人たちが、がっかりしないような背中を見せなきゃいけないなと襟を正すビールの日。時々酒で毒抜きしてまた来週も楽しもうな。

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