オプション。
繊維製造はいつだってトラブルがある。
トラブルの要因はさまざまだ。天災、人災、環境要因やらそもそも企画の物理的不都合など。これを嫌い、多くの企業が繊維製造の定数化を試みるが、同じ商品を延々と作る場合以外、毎回毎度生地やデザインが変わる物、そして案件によってはラインの組み替えを辞さずパワープレイで押し切ってくる猛者がゴロゴロいる世界でどうして定数化できようか。もはや変数であることが定数である。
僕の好きな言葉に「繊維製造の数値化は困難である」という言葉がある。これは環境によって出来の変わる天然繊維を取り扱う会社ではなく、ポリエステルという割と化学の力でなんとかできてしまいそうな会社の言葉である。
つまり、どんなに算数が得意でも、トラブルは起こる。
定数化できる前提で物事を進めていってしまうと、トラブルが起きた時の対処が難しくなる。
『〇〇したら◇◇』や『1+1=2』みたいな公式は、いつだって仮説を立てるためにしかなく、そうならなかった時のオプションは常に用意しておく必要がある。
この考え方が根付いていないと、トラブルが起こった時、依頼側は感情的になり「ダメ!絶対なんとかして!」という言葉を仕入先様にぶつけることしかできなくなる。
気持ちはまぁ、わからんでもない。わからんでもないがそれしかできないと、製造側も警戒心を強めて納期のサバよみや単価の提示が相場より大きくなりやすいし、トラブルが起こりそうな意匠性の高い商品の提案を控えたり、そもそも寄り付かなくなったりと、自分にとってモノづくりの要である作ってくれる人たちのパイプがどんどんと減ってしまう。
そんなことはない、自分はいつだって仕入先がある。と、思ってる人、それ会社の看板に仕方なく付き合ってるだけで、あなたにはないから。
ここら辺を勘違いして転職先でも引き継げる仕入先様があると思ってたら総スカンみたいな人は山ほど見てきた。富士山くらい。
製造側だって悪意があってトラブルを起こすわけではない。そんなことする理由はマジで一個もない。相手のことが死ぬほど嫌いなら知らんけど。
人災の場合はボール持つ人の判断力による場合が多いけどこれはまた別の機会に書くとして、依頼主から「仕入先がトラブルを起こした」という言い方はいつまで経っても違和感しか感じない。そういう仕入先様を選んだ自分に責任はないのだろうか。
製造側もトラブルの対処方として代替え案や歩み寄り案などを用意しつつ、トラブルの原因を突き止めておく必要がある。それがたとえ依頼側の落ち度だとしても、受けて内容を確認した上で依頼主の過不足を補うための努力は必要だ。相手の依頼が悪いで終わってしまうと、いつまでもそういうお客さんしか来ないし、万が一自分たちに原因があっても気づけない可能性だってある。
お客様が仕入先様を選ぶことが可能なように、仕入先様だってお客様を選ぶことだって可能なのだ。客が悪いっていう愚痴が出る人たちの多くは、自分たちで良いお客様にたどり着く努力を怠っていないか。
どちらにせよ、依頼側も製造側も、起きてしまったトラブルに対してとるアクションはただ一つ「納めるためにできることをやる」だ。そのための知識や背景はいつだってオプションとしてそっとポケットにしまっておくのさ。銃を向けられた時の対処法は147通りあるってハーヴィーも言ってた。
そうやってみんなが最終的にハッピーになれる道筋をお互いに探っていくのが良好な関係と言える。だからどんなに選択肢を提案しても感情的に怒り「なんとかして」の一点張りしかできない人が周りにいたら近づかないことだ。トップダウン商売だから付き合わなければいけない場合は、心頭滅却すれば火もまた涼し、無感情に粛々とやるのさ。と、生地問屋さんのショールームで周りの目も気にせず声を荒げているどこかの愚か者と「すみません」しか返せない生地屋さんのやりとりを尻目に感じたビールの日。
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