本質とは何か。

とあるミーティングに二年連続で参加させていただいている。

その中でたくさんの先輩経営者と触れ合わせていただくことで、毎回僕に足りていない知見をいただけるのは非常にありがたい限りだ。

また、その中でも僕自身の拙い意見を述べさせていただいた上で、いただく言葉の中に「本質に気付かされた」というのがある。彼らの言う本質とはなんだろうか、僕にはよくわからない。が、下記のようなことをいつも述べさせていただいているのでまとめておく。


工業経営者の多くに感じる『違和感』は、前職時代から一貫して変わることなく今も根付いているよう思う。


工業の好不調とは生産設備稼働率で語られることが多い。キャパが埋まっていれば、それなりに好調と捉えて差し支えないだろう。逆に、稼働率が低ければ、目に見えてわかりやすく収益状態は宜しくないと判断される。


しかし本当にそうだろうか。


よほどの零細工業を除いて、ある程度の大きさであれば、工業は概ねセクションが『工場』と『営業』に分けられていて、『工場』が『営業』に工賃の社内売りする感覚が多い。これはコストを明確化して、さらに収益体制を増強するのに非常に役立つ採算管理方法だ。

工業の採算をしっかりと理解して、その上で工場の工賃を黒字化させるために、営業部門に対して工賃の社内売りをすると言うのは、決算書には出てこないが、社内ルールではよくある。

これが良い悪いの話ではない。むしろ仕組みとしては個人的には優れていると思う。というか会計的にも、製造部門の人件費と、営業部門の人件費では、製造原価と販売管理費で明確な線引きがあるので、この仕組みを入れざるを得ない場合が多いようにも感じる。


この仕組みの中で『営業』はある一定の生産数を保持する相手を選ぶことを好む。それは『工場』にとっても好まれる相手で、比較的数量が安定していて、難しいことを要求せず、一定のクオリティを維持できていれば、おそらくは仕事がなくなることはない、そんな相手を工業は好む。


この性質を理解していれば、当ブログでも何度も触れているように、ファッションの現場と繊維製造工業の現場がなかなか相互理解に至らない、というのがわかるのではないだろうか。


よく聞く「閑散期に生産を依頼することで工場の埋め合わせをする」と言う話。これらは計画生産ができるメーカーにとって、工賃を安く設定できるラッキーチャンス的な部分も多いが、これ結局繁忙期でも大量に入れれば安くできると思われてるので、結果的に通年安くやってもらえるという思想があって、ずっと買い手が強い商売になってる。

工業視点で言えば本来は閑散期こそしっかりと『高い工賃』で少ない物量でも採算が合うようにしなければいけない。

ここに明確な矛盾点がある。


工場営業はこの点がめっぽう弱い。僕も含めて、数に目が眩む。


できればキャパが埋まるような、継続的で楽な工賃商売を仕掛けたがる。

そして稼働率に落ち込みを見れば、安くても他社のパイを奪ってキャパを埋めようとする。


結果何が起こるか。


閑散期に安価受けした仕事がもし、相手にとって継続商品だったら、繁忙期でも、もっと高単価商売を仕掛けることができたかもしれないのに、安価な継続商品を製造ラインに入れなくてはならない。閑散期だったから安くできたけど、と言うのは、相手からすると「知ったことではない」のだ。一旦安く設定された仕入れ金額を上げることは、普通ありえない。


昔、前職時代に、新規のお客様から初めて見本の依頼をいただいた。自社製造ラインで生産しようと現場にオーダーするも、当時の現場からは「こんなもん仕事ちゃうwww」と足蹴にされ、やむなく外注した。

社内的に出す工賃で見積もりしていたが、外注先の見積もりは社内分よりかなり安かった。そして量産の依頼が来たとき、かなり大口のオーダーで驚いたが、そのまま見本を生産してくれた外注先へ依頼した。少し見積もりにゆとりがあったので、仕入れ先様へ多少工賃を上げても良い旨伝え、最初に自社見積もりしていたよりは安かったが、提示してくれたコストよりは高く仕入れることで非常に喜ばれた。

しかし後ほど自社の工場からは「なんでウチでやらへんねん」と不満を露わにされたので「御社は高いし、見本を足蹴にして対応も悪かったんで」とお伝えした。自社工場に向けてである。これは明らかに僕の心からの嫌味である。


固定費というのは重い。工業にとっては大きなネックである。でも、ある程度変動がないのも事実である。

であれば、少量でも高単価で受注できれば、稼働率が低くても採算が合う可能性が出てくる。

簡単に言えば、毎月の損益分岐点が100万円の工場で、一月に1,000枚で単価¥1,000/枚の仕事でいっぱいになるのと、50枚でも¥5,000/枚の仕事が軽く4回転するのであれば月ノルマクリア目線では同じである。

手前の段取りによるが、これが5回転すると、¥1,000/枚を1,000枚を受けるより収益は良くなる。ただ、手元はかなり忙しくなると思うので、運動量は増える。

それでも、理論上、月産1,000枚を上げられることをベースに考えれば、50枚の仕事は20回転できる計算になる。まぁ、流れ出してからのスピードは全然1,000枚と考え方が違うので出来ないのはわかってる。

でもこれを重ねて効率化すると月6-7回転できる可能性が出てくる。

そして自社で回しきれない部分を外注して少しでも利益を積むことができればそれだけ売上高も増えるし、お客様のニーズを満たすことも可能になる。当然、現場も営業も、運動量は増える。


要は、運動量の増加なくして収益の改善は難しいと言いたいのだが、どうもこの「やり方」だけに目が行って、高単価の新規を取れば良いとか、そういう話に落ち着きやすい。で、運動量を同じくして新規先だけ増えるとどうなるか。

職出しを上手にできないようなお客さんに対して「あいつらは素人だ」と不平不満を言うようになる。


キャッシュポイントが工業設備回転率に置かれるとこういうことが起こりがち。

理論上¥5,000/枚を50枚、月に6回転させるのは可能でも、それに見合った自分たちのケアや、お客様の懐事情やどれだけのフォローを必要としているかなど、今手元にある要素を相手の要素と突き合わせて実現可能か?求められているか?という検証がされないまま、高単価のお客様を探し出す。これはもう、すぐ失敗する。


いや、失敗から学べれば良い。でもたぶん、僕の知る限り、話を聞いて「そやな!それや!よっしゃ!」となってから「アカンやん、無理やで」と、一年程度で諦めるこの流れを三年周期くらいで繰り返している。


なぜか。


それは多分、彼らが僕らの話から読み取る『本質』と言うのが、どうやったら工場が儲かるか?と言う、お金ありきのところだろう。理論上の計算とそれに見合う収益は、あくまでもそういう相手としっかり手を握れている前提にある。そこがそっくり抜け落ちている。

僕の考えるこの工業収益の本質は、自分たちの存在が誰の役に立つか?がスタートなので、本質がわかったと言われても違和感しかないのは、手法ばかりに目がいくところなのかもしれないと思った。


工場設備とは、あくまでもお客様の要望を満たすための道具なのに、道具があるからお客様が動くみたいな歪んだ流れが工業の思想に根付いている。

現状の収益性を悲観するなら、まずは相手にとって本当にその価値があったかどうか見直すと良いのかもしれない。

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