認識の差。

モノづくりをしていれば、トラブルはつきものだ。

納期みたいな、時間軸の認識がズレるのはどの立場から見ても明らかなので、物理的生産日数やそれに伴う色々のちょっとした保険日数が満たされていたらある程度は守られる。

しかし繊維製品の品質というのは基準が非常に曖昧で、工業製品として数値的基準値が満たされていても、美観的な意味合いの風合いや色艶など受け取り側が納得できる線引きは規定できなかったりするので、ここら辺の感覚のズレでけっこう商業側と工業側が揉めるケースは過去に何度も見てきたし、なんならその揉めの中心にいて、どっち側とも戦ったことがある。


戦うと言っている時点で、対立する前提になっているのがおかしい状態なのは冷静になればわかる。本来であれば、お客様に満足いただける状態で納品するために全員で一丸となって生産に当たるのがスジだ。

ところが客先にも理不尽な人が一定数存在するのは事実。客なんだからお前ら言うこと聞けよってスタンスのところは未だに存在しているようだ。それはきっとSNSで見かける製造側の不満の声からも想像するに、大昔前職時代に僕が遭遇した白を黒だと言ってくるような人が相変わらず生き残っているのだろう。さすがアパレル業界だ。

そういう輩とは全力で数値と理論で戦って工業を守る方向にエネルギーを使った。奴らはトラブルを自発的に起こして仕入先に難癖付けることが仕事だと思っている。以降は付き合う必要はない。きっと相手が誰でも同じことを繰り返して、その分安く仕入れることに成功した側面だけ持って転職しては仕入先から嫌われる人生を歩んでいくのだ。事実仕入先は離れても離れ際の案件ではきっと提示価格よりも減額した仕入れを起こすことに成功しているはずだ。表面上の実績としてそれが部分最適人材と考えるならばそれはそれなのであとはご自由に。公取からガサが入っても採用側の責任なので。


一方で、普段の生産上起こりうるズレを許容しながらも、やはりブランドとしては譲れないところがあればしっかりと指摘してくる先に対しては、その企画の意図を汲み取った上で、工業側に対して修正対応をお願いする動きを取るのが一般的だ。

しかしこれに対して難色を示す工業が存在するのも、悲しいけれど事実。誰が見ても違うだろという状態のものが、履歴上同じ物だと主張するケースも少なくない。

商業と工業の直接取引ではない場合、そもそもそういうスタンスの工業をファッションの製造仕入先として選定してしまったという中間側の落ち度があるので、責任自体は中間が負うことになるのだが、彼らの拒絶反応は凄まじい。

彼らはファッション産業のお手伝いではなく、設備を使って作業をしているだけだ。そこにモノづくりのフィロソフィーはない。その割に日本のモノづくりリーダーを代表しているような顔をしてたりするから笑わせる。

こういうところに限って、キャパが埋まらないとゴマすり営業をかけてきたりする。じゃあ今ある案件でどうでしょうってことでうっかり理不尽客の案件でも落とそうもんなら、あとはわかるな?


間に入って調整する立場が優秀なら、この両サイドを最悪同士で組み合わせるようなことはほとんどない。だから世の中のトラブルのほとんどは、割と丸くおさまっているのだが、ルーキーだったり、属性が読めないタイプの人が間に入ってしまうとたまに壮大なケミストリーを引き起こす。ちょっとした認識のズレが会社間取引停止まで行く可能性があるから面白い。

そんなになるまで上は何してたんだってことがあるのもまた繊維業界っぽくて面白い。組織とは。

だから個人商店が乱立して、いつだって戦国時代なのかもしれない。


誰もが皆、悪いものを作ろうなんてハナから思って仕事してるわけじゃない、はず。

どうやって結果を残していくかを真剣に考えれば、どの目線にどう立って物事を進めていくかは自然と身につくようになるもの。

たとえ理不尽があからさまでも、そいつなりの正義があったりする。正当化はできなくてもその立ち位置ごとに守るべきことを守るべくやることをやっているのであれば、事を憎んで人を憎まず。あとは時間と世間が処遇を決める。

取り急ぎ、冷静に考えれば、認識のズレを埋めて納品に向けて尽力するのが当たり前であって、それぞれの都合による金銭的解決はまた後の話である。金銭的解決を圧力としてチラつかせて脅すのはもってのほかだけどね。


まずはお互い認識が違うってことを受け止めてから、違いのズレを見つけていく作業が必要。認めるのは少し勇気が必要かもしれないけど、頑張って乗り越えて欲しいなって思った師走。

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