事故は起こる。

昨年SADOBASE設立後、建物を所有するという会社として初めての経験だったため、保険に加入した。

更新の時期がきて保険屋さんとお話をしていて、割と、いや強烈に衝撃を受けたことがあったので今回はその話。


我々繊維事業に携わる人間からすると、おそらく周知の事実で、あえて説明するまでもないことの一つに『デニム(indigo)製品の色落ち』がある。

なぜそうなるかは、デニムに詳しい人が世の中にはたくさんいらっしゃるのでそちらを参照してくださったら良いかと思うが、簡単に説明すると、デニムは糸の表面に絵の具で色をつけているイメージに近い。表面染着と呼ばれる状態で極端な表現をすると物と物が糊でくっついているような感じだ。

試しにお手持ちのデニム服にほつれでもあったらそこから糸を一本引き出して撚りを解いて見ると糸の表面は濃紺だった物が内側から白い繊維が出てくるのが確認できるはず。


着いている色が落ちるということは、他の物に落ちた色が付く(移る)ことも同時に想定できる。上記のポストはその落ちた色が他の物に付いてしまったため大きな問題に発展した。


当然デニム商品のほとんどには、品質表示と一緒に縫い付けてある取扱注意に色が落ちる旨と、その色が他のものに移る旨の明記がある。

こちらは弊社が常日頃お世話になっている東京吉岡様発行の取扱ガイドブックの引用だが、デニム製品に対して付ける取扱注意はこんな感じの内容であと何ページかある。写真中の左上はインディゴ素材を使っているとしか書いてないが、まぁそれだけデニム素材はそういうもんだって認識からくるやつなんだと思う。


注意したいところとしては、語尾が「〜することがある。」と書いているのがほとんどで、『必ず起こる』と言い切っていないところ。


で、保険屋さんの話によると

「本件はかなりレアケースで、訴えを起こした方の体型や使用状況にも起因するところがあった可能性があるものの、程度としては結構な色移り具合で、事業者も店頭で説明努力義務も足りなかったと法廷で認められてしまった」

とのことで、保険屋さんのご担当様も直接訴えを起こした方に面会されたそうだが、正直事業者がかわいそうな側面も否めなかったとのこと。

結末としては最終的に色移りしてしまった物の原状回復で和解にて合意したそうだけれど、調停中は全店舗から商品引き上げやクレーム内容を開示して購入者にリコールを呼びかけるなど、メーカー様のご苦労(と負担経費)は計り知れない。

このリコールも保険で補填されたようで、たまったもんじゃなかっただろうけれどとりあえず保険入っててよかったよねっていう着地。


まぁ保険屋さんも商売だから、こういう危険を認知させて自社の保険商品を買ってもらう手段ではある。相当発生確率の低い事故だとしても知らせておいて備えてもらうのが彼らのスタイル。ただこの手の「いや、それは難癖だろう」といったクレームでも今の世の中は普通にあると考える方が良いだろう。

繊維製品なんて特に『絶対』は有り得ない物を扱う以上、自分の手を離れて特性解釈が薄まっていく先、どんな人がどんな角度から事故を引き起こすかなんて想像もできない。


たぶん色系でいくと、綿製品で真っ白の多くは『蛍光剤』を採用されているはずで、この蛍光剤は染料である以上、使用洗濯経年で脱落していく。結果的に縫い糸がポリエステルの蛍光白だけ太陽光や蛍光灯下で浮かび上がって、身生地の白は少しくすんで見えるようになる。

みたいなのを「不良品だ!」と騒ぎ、バズり至上主義の承認欲求の塊が悪徳業者を裁く正義のようにSNS上に現れてくることは容易に想像できる。

企業はイメージを損ねないためにこれらを不必要なまでに過保護に扱い沈静化でもさせない限り多くの歪んだ正義によって墜落させられる危険性が高まっている。


正義とはなんだね。


とりあえず保険の契約を更新したという話。火災保険ね。

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