役割。

それぞれの現場にはそれぞれの役割がある。

どの業界、どの会社、どんなサイズのコミュニティでも、明確な線引きがあろうが無かろうが、集団で活動している場にはもれなくその人その人に役割があるように。


我らの繊維業界では(他業界もそうだろうけど)、その役割が明確に分業化され、会社化している。製造の垂直統合は将来弊社的に目指している部分ではあるが、とはいえクライアントワークにおいては、分業しているからこそ成り立っている世界だと痛感せざるを得ない。


このブログでも何度も触れているが、一枚の服と言うと語弊があるので、一型の服を生産する上で、このロングテールなサプライチェーンをまとめていくのは大変重労働である。

実務において、最近はめっきり生地を買うというところからスタートする仕事が増えてしまっているが、きちんと企画を糸軸からやっていこうという気概があるメーカー様のビルドアップは、紡績の手前、原材料(ここでいう原材料は生地ではなく繊維そのもの)選定から始まる場合もあるので、そこから始まるとなると、紡績メーカー様→撚糸や糸加工工場様→織りや編み工場様→染色整理加工場様→二次加工(プリントなど)工場様→縫製工場様(場合によっては裁断専門工場様→縫う専門の縫製工場様→仕上げ検品所様)→製品加工及び二次加工工場様→仕上検品所様→納品というのが最長コースかと思われる。(もちろんこれより手数がかかる場合もある)


それぞれの工場様はそれぞれの場面においてその役割を果たされるのがお仕事であり、終着点を知らないままその作業をこなす現場も、特に川上方面においては多いのではないだろうか。

しかもエンドユーザーたる依頼側が、これらそれぞれの方々と直接やりとりして一つの企画を組み立てていくのは、現在の市場のスピード感から言って現実的ではない。

だから、生地になる手前のことは生地屋さんがまとめて企画してくれていたり、服に組み上げていく段取りをOEMメーカーが肩代わりしたりしているのが大半の現実だろう。これによって依頼者側はたくさんの型数をこなすことが可能になっている。もちろん全ての部分にタッチしている方がいらっしゃるのも知っているが。分母の大きさだけでいくとこんな感じが今の日本のファッション製造側のイメージだ。


これだけの持ち場があって企画者の意図を高精度で形にしていく苦労があるのに、近い持ち場間でもそれぞれに作業効率的に改善してほしい『意見』というのは出てくる。


産業全体を面で見るよりは、個々の工場を点で見たときに出てくるそれぞれの都合というのは、現場をよく知る人からするとそれぞれの気持ちはわかる。だがそれぞれにそれぞれの事情があって結果的にそうなっているからなんとも言えない事態というのは、日々そこかしこで起こっている。


机上理論値で合理的に生産を進めようとする流れは望ましいが、物流時のトラブルも含めて、これらの現場現場間で上がっているそれぞれの都合による『意見』が解消されない時、そこに感情論も重なった生産トラブルが起こる。いわゆるヒューマンエラーと片付けられがちな部分だが、前述の通り、面ではなく線でもなく点で、そもそも今自分たちが手をかけている作業がどんな商品になるかわからない人たちが組み立てを担ってくれているのだから、その現場都合の『意見』は出てきてもおかしくない。


依頼側からすると、俯瞰して見れば些細なことで、それぞれに解決してほしいと思っているレベルであるからして、これらの積み重ねによって商品に欠陥が生じた場合でも、改善策としては工場側の意識向上を促すことくらいしかできないと思っている人が大半だろう。

しっかりその事態がなぜ起こったのかを突き詰めていくと、結果的に現場の意識にたどり着く場合も多い。それらをいちいち事例化してトラブルシュートしていくとなると、イレギュラーがレギュラーの世界でははっきり言って現実的ではない。また全方位的に知識がないと応用が効きにくい。負担が大きすぎるとなった結果、依頼者側の知識はどんどん欠乏していき、今は寸法誤差や企画時点での物理的不都合でも「ダメですなんとかしてください」一言で片付けてしまうような乱暴なケースまで出ている様子。これらを防ぐために大手などは品管も独立部門である場合もあるが、ぶっちゃけ仕事を作るための仕事をするような人も多いので、製造現場の改善に役立っているかというと、会社が不利益を被らないために重箱の隅をつつく印象の方が強い。それも立派な会社を守る仕事ではあるから、非難される立ち位置ではないが、製造業からの目線は冷ややかだ。


まぁ正直、それくらいで構わない気もする。だっていちいちエラーが起こる可能性を詳細に並べてしまえば、おそらく企画側はそのリスクを負えない。追うべきだという論もわかるが一旦おいておく。つまり生産進行しないので、それでは商売が成り立たない。だからあらかたその辺の現場都合による感情の落とし所としては、中間業者が介在している場合は中間業者がそのトゲトゲを丸くしているはずだ。

そう考えると中間業者のやるべきことは明確だ。製造都合と企画都合を双方向に調整して企画立案から製造納品までコミットする。これだけで相当まともな中間業者だと思われる。

世間から聞こえてくる現場の不都合な声というのは、おそらくこの当たり前にすべきことを放棄した人があまりにも多いからだと推測する。だが仕方ない、従事する人全てが業界改善のために意識を持って働けるかというと、そうでもないから。むしろそういった高い意識の人の声が目に付くから多く感じるだけで、実務現場というのは案外、圧倒的多数で、その場にきた作業をこなすだけの人たちで構成されている。

これ自体が悪いから改善されるべきこととも思わない。だってその仕事に就く理由なんて人それぞれだし、それぞれの人生において、それぞれの役割を意識持ってまっとうしているはずなので、誰がその人の人生観まで強制することができようかいやできまい。


目線が変われば意見も変わる。正義と悪はいつだって隣り合わせで、是々非々で片付けられる問題ばかりではない。少なくとも、自分たちは、双方にとって円滑な進行を助けることができるように鋭意努力を重ねていきたいと改めて思った。

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