歩み寄りと取り組み。

製造業は古くから発注者に依存して生計を立ててきた。これは「取り組み」としてある種暗黙の忖度がありコストやスケジュールの折り合いをつけクオリティを担保する代わりに仕事を切らさずに回してもらうという商習慣だ。メリットデメリット混在も抱きかかえで、大方この方法で会社の安定を保ってきた工業は多いはずだ。

この方法に依存してきたが故に、若者や業界外の人たちが新規ブランド立ち上げをしてから商品を製造していく上でハードルをあげている要因になっているのは間違いない。


しかし現状の商習慣で既存の取引先が安泰という保証もなければ、自社の将来が安泰という保証もない。というか、取引先が先細ると必然的に共倒れ必至だ。なので、製造側も新規顧客獲得にチカラを入れている会社は多い。

ところが先にも書いた通り、長年に渡り「取り組み」ができている取引先と作り上げてきた土台の上にある製造上の「共通言語」を持ち合わせない新規参入組とのやりとりは、製造業者にとっては改めてコミュニケーションを始めなければいけないというストレスから、「まずは基礎知識がなければ話にならない」と言わんばかりの拒絶に近い態度をとる業者も少なくない。

この裏には実は製造業はニュアンスに疎く、雰囲気のイメージを伝えられて製造に当たるとデザイナーが思い描いた上がりイメージと実際の上がりの乖離からくる失望を避ける為に、技術的にわかるように指示してもらいたいという思いがこもっていることもある。非常に遠回りではあるが。


テキスタイルの場合は特にたたき台が無い生地を理論上で生産移行していく時、具体的な製造指示ができないと、かなりの確率で「思ってたのと違う!」現象がおこる。

製造側からすると、聞いた言葉通りに作ったつもりでも、デザイナー側からするとニュアンスがズレているという現象。ここが共通言語を持ち合わせない者同士のイメージの乖離だ。

デザイナー側からしたら、「なんでわからないのか?」という気持ちになるだろう。

しかし製造側からしたら、「言葉で聞いた内容と何が違うのか?」という心理になる。

デザイナー側はこの現象に対して「技術が無い」と思うこともあるだろう。

しかし製造側はクオリティとして劣ったモノを作っているわけでは無いので受け入れられないことが受け入れられない。パラレルワールドだ。


例えばこの時、デザイナー側が物理的に無理なことを知らぬ間に言っていたとしたら、そもそも完成するはずが無いので、一生そのクオリティに出会うことは無い。これは製造業の怠慢ではなく、依頼者の無知が招く惨事。

なので依頼者がある程度の製造知識があることで回避できる可能性は高い。ここはデザイナー側が製造に歩み寄る努力をする必要がある。


一方で製造業は「物理的には出来るけどやりたく無い」案件がある。

それはスポットでしか仕事がもらえない先が、取り掛かるのに段取り上非常に面倒な仕事を入れてくる場合、高確率で断る対象になる。

スポットでしか依頼してこないクセに、手間がかかる割に市場の相場で値段交渉仕掛けられた日には以降の取引さえやめてしまおうという勢いになる。これは生産者の心理上の問題でもあり、製造業の収益体制の問題でもある。年間取引額である程度の「取り組み」ができている顧客に対しては面倒な段取りも融通して生産以降することを厭わない、これが心理上の問題。また年間である程度の製造委託を受けているとスポットで見たら収益的には欠損がでる可能性があっても、バルクで慣らしたら大した問題では無い場合がある。これは儲からなくても、他で儲けさせてもらうことが出来る。全部が全部クイックで、単価も全て値切ってくるような先は論外だが、製造と「取り組む」というのは作る側にもメリットがあるようにしていくという意識が必要なのだ。


依頼側が過度には不要だが、ある程度技術的な指示を出せるように製造に「歩み寄り」、単発で終わらないように取引を続けるよう意識していくことで、製造側もデザイナーの意図に沿った製造を意識するようになる。

製造側も、旧来の「取り組み」に甘えることなく技術研鑽を積み、相見積もりを取られても負けないような体制を用意しておくなど、新たな依頼を受け入れた先と共に歩み寄り取り組むことで双方のメリットが生まれるのだ。

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