〇〇だから良いのか。
生地提案の際、特徴を聞かれることが多くなって久しい。もうかれこれ10年くらい前から、生地提案とウンチクの説明はセットだ。
大手問屋様の生地スワッチにも、提案色と一緒にその生地の特徴などが書かれていることが増えた。というより、書かれているものの方が多くなった。
生地名も昔は『60/2コンパクトスピン天竺シルケットバイオ』のように、糸種→組織→付加加工名などで記載されていたが、最近は各社独自の名前を生地につけるようになった。これはこれで、見ている方からすると各社のエンタメセンスも垣間見えて楽しいものだ。
こういう風潮になってきたのは、洋服店頭販売まで素材特性を理解していただければ価値が伝わるというところかと思う。また一方では開発素材のリプロ(まねっこ)を防ぐ面もあるが、これに関してはまた別の機会にでも。
川上の原材料から選び抜かれて作られた生地や服、そしてそれに関わった人々にとって、そのこだわりの熱量が最終ユーザーまで届いてくれたらこんなに嬉しいことはない。
この一連から、中間業者間でも生地特性を理解しようと説明を求められることが増えた。上記の通り、伝わったら嬉しいものなので解説自体は喜んでさせていただいている。一方で、キラーワード的なものを求めるクセもあるように感じている。
これは機能性なんかがわかりやすい。
例えば吸水速乾とかは、もうそのまんま。原材料名だと例えば綿なら『スーピマ』とか、ちょっと詳しい域になってくると『SUVIN』とか。
でも、じゃ「SUVINだから良い。」っていう店頭販売方法はどうなのか。
というのは以前書いた。
最近は糸製法の領域まで突っ込んで書いてあることも多くなった。天然繊維で、綿紡績ならリングおよびサイロやコンパクトスピン、空紡/OE/BDーMVS/MJS、ガラ紡など、ざっと知る限りでもまあまあある。毛紡績でも梳毛や紡毛、絹でも生糸やら絹紡糸、麻も湿式や乾式、それぞれ全てを綿紡工程でやることもある。派生して強撚やら甘撚りやら追撚解撚うんぬんかんぬん。
それぞれに一長一短がある。だから、その冠だけとって「良い」とはなりえない。冠といえば三王冠という糸銘柄もある。どうでもいいけど。
僕ら繊維戦士ほど食い込んでない方々にしてみたら「原材料のポテンシャルを最大限に引き出した製法で〜」みたいな枕詞付きで製造専門用語を言おうもんならそれっぽく聞こえてしまう。
そしてそのまま価値変換できたらこれ幸いとばかりに、店頭に限らず、アパレルメーカー様などを相手取って中間業者も大風呂敷を広げがちだ。
もし相手が博識で「なるほど、では空紡はどうして良いのですか?」なんてツッコミが来たらどうしよう。なぜ空紡なら良いのか、きっちり説明できるだろうか。
原材料のポテンシャルを〜という枕詞に頼るか?ではさらに突っ込んで「空紡だとどうして原材料のポテンシャルが最大限に引き出せるんですか?」なんて聞かれたらどうしよう。きっちり説明できるだろうか。
こんな意地悪な人はあんまりいないと思うけど。
そういうことも想定して、生地説明を求められた際は、まず「どういう着心地を体験できる可能性があるのか?」そして「なぜその可能性があるのか?」をセットでご説明させていただいている。するとどうだろう。話が長くてほとんど聞いてもらえない(´・_・`)
要約が下手くそなのは自責するところだ。
「可能性がある」と濁すのは、いくら専門領域の証左があったところで、人の感じる価値というのは違うからだ。そしてその可能性の証左を物理構造などで解説するわけだが、これはなかなか耳に入らないらしい。まぁそんなもんだ。別に気にしない。
でも、突っ込んで聞いてくる人おったらどうするのん?という気持ちと、深く聞いてくれて興味持ってくれる人が増えたら、作っている側としてはとても嬉しいという気持ち。
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